日経ビジネスアソシエ「話しあえる人間関係を作るアサーティブ・トレーニング」特集まとめ

これまでの記事でも取り上げてきたが、アソシエに連載されていたアサーティブ・トレーニング特集の掲載号と概要を、自分用の資料としてまとめたのでこちらにも載せておく。内容はそれぞれの号から抜粋したもの。

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★第1回2006.07.04号

「アサーティブネス」とは、自分も相手も大切にする一対一のコミュニケーションのあり方である。直訳すると「自己主張すること」という意味だが、自分の意見を押し通したり、相手を説得して「イエス」と言わせるためのスキルではない。私はこう思うけど、こんなのはどう?といったように、「話し合える人間関係を作るためのコミュニケーションスキル」である

アサーティブな人は、自分の要求や意見を、相手の権利を侵害することなく、誠実に、率直に、対等に表現できる。「誠実」「率直」「対等」そして「自己責任」はアサーティブネスの4つの柱だ。

「アサーティブネスの12の権利」
1 私には、日常的な役割にとらわれることなく、一人の人間として、自分のための優先順位を決める権利がある。
2 私には、能力のある対等な人間として、敬意をもって扱われる権利がある。
3 私には、自分の感情を認め、それを表現する権利がある。
4 私には、自分の意見と価値観を表明する権利がある。
5 私には、自分のために、「イエス」「ノー」を決めて言う権利がある。
6 私には、間違う権利がある。
7 私には、考えを変える権利がある。
8 私には、「よく分かりません」と言う権利がある。
9 私には、欲しいものやしたいことを求める権利がある。
10 私には、人の悩みの種を自分の責任にしなくてもよい権利がある。
11 私には、周りの人からの評価を気にせず、人と接する権利がある。
12 私には、アサーティブではない自分を選ぶ権利がある。
(copyright NPO法人アサーティブジャパン)


★第2回2006.07.18号 「率直に頼む」(1)

アサーティブに伝える際の基本として、まず伝えたいことの整理から始める。「事実」「感情」「要求」「結果」の4つだ。

例えば、報告書の提出期限を守らない部下がいたとする。そんな時、私たちはつい、「早く出してほしい」という「要求」を先に言ってしまいがちだ。初めに「事実」を述べる。その際には、客観的、具体的、簡潔に述べること。

「笑顔を見せながら注意するのはダブルメッセージになり、伝わりにくい」


★第3回2006.08.01号 「率直に頼む」(2)

1.要求の的を絞る
・相手ができることを具体的に一つだけ要求する
・率直、簡潔に伝える
2.繰り返し自分のポイントに立ち戻る
・落ち着いて何度も繰り返す。相手の論理に巻き込まれたり、話がそれてしまうのを避けることができる
3.気持ちを言葉にする
・なぜ言いたいのか、理由となる感情を伝える。「困ったから」「疲れたから」これはあなたを相手に理解してもらうために、とても大切な方法である
・その場で感じた自分の気持ちをそのまま言葉で表現する。「言いづらいのですが」「なんて言えばいいのか迷っていたのだけれど」。胸に詰まった感情が吐き出され、リラックスして相手に向き合うことができる
※注 「感情を現す」≠「感情的な態度」
アサーティブな感情表現とは、感情を爆発させることではなく、感情を言葉で表すこと
(感情の言語化)
4.ボディーランゲージははっきりと
・態度や表情、声の調子が、全体のトーンを決定する。言葉とボディーランゲージが一致してこそ伝えたいことがいっそう明確になる
・具体的には、相手と向き合う/目を見て話す/語尾まではっきり声を出す、など
5.相手を理解する
・自分が理解されたいなら、相手のことも理解しよう。双方の要求と問題点がはっきりすれば、どうすればいいか、答えを見つけやすくなる


★第4回2006.08.15号 「ロールプレイの進め方」

1 ロールプレイの役割
・行為者 自分の課題でロールプレイに取り組む人
・相手役 行為者の相手役になる人
・観察者 客観的にロールプレイを見る人

2 ロールプレイの進め方
・相手が取り組む課題の状況を説明する
・相手役の人物像を説明する。相手役が演じられるように、なるべく客観的な情報を与える。
・場面設定をする
・ロールプレイをする
・フィードバックを与える
・フィードバックを踏まえて、ロールプレイを2回から3回繰り返す

3 フィードバックのポイント
1)発言する順番
行為者→相手役→観察者

2)発言する内容と順番
良かった点→次回に向けての改善点

・実際に表に表れた態度や言葉だけに触れる。的は絞れていたか、繰り返し伝えたか、気持ちを言葉にしていたか、ボディーランゲージは適切か、相手の立場を理解しようとしていたか、など
・行為者の伝え方を非難したり、分析したりしない
・行為者の伝え方を単にそのまま述べるのでなく、何を、どうすればもっと伝わるようになるのか、具体的な改善点を与える


★第5回2006.09.05号「上手に断るために 人間関係を壊さない『ノー』」。

アサーティブな「ノー」とは
* 相手と自分に誠実でありたいからこそ言う言葉
* 相手と長くより深い関係を築く架け橋の言葉
* 何ができて何ができないのかを分かってもらう理解の言葉
* あなたを「燃え尽き」から救う魔法の言葉
* あなたと私は違う。それがOKだから伝える言葉

★第6回2006.09.19号 「人間関係を壊さずに断る方法 まず『ノー』を見極める」

「ノーと言って断るための8つのポイント」
1. 体は答を知っている
「ノー」の気持ちは、最初は体を通して表れる。伏目がちになる、体が硬くなる、胃が痛くなるなら「ノー」だ。答えが「ノー」だとわかったら、そのうえでどう答えるか考える。「イエス」でも「ノー」でもいい。ただし、自分の言葉に責任を持ち、言動を一致させる。

2. 何に対して「ノー」なのか「ノー」の的を絞る
 何をイヤだと感じているのか、対象をはっきりさせる。相手の要求がイヤなのか、言い方がイヤなのか、時間なのか、仕事の量なのか、そもそも相手が嫌いなのか、それが明らかになれば問題解決も早くなる。

3. その場で答を出す必要はない
 気持ちが決まらなければ、「今はよく分からない」「もう少し待ってください」あるいは「もう少し詳しく教えてほしい」と言って判断の材料をもらい、時間を決めて答えを出す。

4. 断る理由は簡潔に率直に
 長々した理由は相手を混乱させる。相手が聞きたいのは弁解ではない。あなたの意思なのだ。

5. 最後まではっきりと意志を伝える
 語尾を濁さずに、最後まではっきりと自分の意思を伝える。「だから○○したくない」「でも、今回はお引き受けできません」。

6. 自分はどうしたいのか代替案を用意する
 「ノー」は問題解決への第一歩。あなたがどうしたいのかを提案して、相手と一緒に解決策を考えよう。

7. 対等であること
 相手の立場も考える。かといって卑屈にならない。自分の「ノー」を伝えたら、相手の意思にも耳を傾けよう。責任を感じて、何とかしようとする必要はない。対等な立場からそれを受け止めて、相手を理解する。

8. 立ち去る、話題を変える
 断ったうしろめたさや相手への同情のために、その場をウロウロしない。話が終わったのなら無駄な期待をこれ以上抱かせないために、話に区切りをつける。自分の責任は果たしたのだから、あとは相手の問題だ。


★第7回2006.10.03号「ボディーランゲージ」

* 姿勢・・・うつむいたり、体を揺らしたりせず、なるべくリラックスして、真っ直ぐ立つか、背筋を伸ばして座るようにする。
* 相手との距離・・・近すぎず遠すぎず。自分が話しやすい位置で。思いを真剣に受けとめてもらうには、相手と真正面から向き合うのが効果的。
* 目線の高さ・・・見上げるのでもなく見下ろすのでもなく、目の高さを合わせて真っ直ぐ相手を見つめると、対等な関係性を築きやすい。
* 口とあご・・・隠している感情が出やすい。断るときに微笑んでしまうと相手に真剣さが伝わらないし、あごが出ていれば攻撃的なサインを送ってしまう。
* 声・・・大きさや高さ、話す速さが話の内容に合ったものにする。落ち着いた口調でゆっくりと、語尾まではっきりと話す。

「誠実さや真剣さが自然にボディーランゲージに表れ、言葉と一体になって初めて相手に伝わるということを忘れないでください」

★第8回2006.10.17号 「批判の種類を判断する」

批判への対処は、学ぶ前と学んだ後での変化が最も大きい

・批判の対象外の領域A(自分では変えられないもの)→不当な批判 拒否してもいい
生まれ、信条、人格、感情

ex.人格や性格に対するレッテル張り
「いつも言い訳ばかりだね」→「いつも」がつくのはほとんどが不当な批判

事実とレッテル張りを分けて、レッテル部分を否定

・批判の対象となる領域B(自分で変えられるもの)→正当な批判と不当な批判
行動、態度、考え方、言い方

当たっている→正当な批判
当たっていない→不当な批判
分からない

正当な批判→同意する、事実を認める→自分でも改善したいと思っている
→自分はそれでいいと思っている

正当か不当かわからない→具体的に尋ねる
(「それはいつの時ですか?具体的に教えてください」
「だらしがないとおっしゃるのはどの点でしょうか」)

不当な批判→事実とレッテル張りを分ける
(人格や性格に対する決めつけなど、自分で選択しないレッテルは否定しない)

きっぱりと否定する
(自分を傷つける批判の言葉に対しては「やめてほしい」と伝えて自分を守る

具体的に何が問題なのかを聞き出して、問題解決に持っていく
(「私は仕事にやる気を持っています。でも、どういうところでやる気がない
ように見えましたか」)

聞き流す/立ち去る
       (あまりにバカバカしい批判は、いつまでも聞き続ける必要はない)

特別な種類:心の急所への批判
批判されると心が痛み、思わず感情が爆発する、地雷のような領域
→その場での対応は最小限にとどめる
(「その言葉は言わないでほしい」と伝えるのみ)
長い目で傷ついた心を癒す


★第9回2006.11.07号 「息を吐いてオウム返し」

「聴く」のと「受け入れる」のとは全く違う行為です。「聴く」ことを「受け入れる」こと、つまり「同意」と混同するから、批判の言葉に耳をふさぎたくなるのです。「受け入れる」のではなく「受け取る」練習をしましょう。

受け取るには相手の言葉をオウム返しにするだけでいい。まだ同意はしていないのだから。「相手の言葉を受け取ってから、『私はそう思っていません』と否定するなり、『確かにそういう部分もありますね』と同意するなりして対処すればいいのだ」

* 気持ちを言葉にして身体の緊張を解く
* 批判のメッセージを「聴く」
* 批判はプレゼント
* 自分を肯定的にとらえる
* 批判の言葉と自分自身を分けて考える
* 故意に傷つけられない権利がある

批判する人の心理は「私はあなたをこう思っている。ちゃんと聴け」というものだ。だから相手の言葉を受け取れば、攻撃の矢は折れるのである。

自己批判の矢はなるべく減らし、自己信頼の力をつけていくと、批判の正当性がより客観的に見えてくる。


★第10回2006.11.21号 「自分も相手も傷つけないで怒る方法〜語彙を増やし気持ちを言語化

「怒りを飲み込むのでもなく、ぶちまけるのでもなく、アサーティブに伝えるにはどうしたらい
いか。」

・その時の怒りを表現するボキャブラリーを増やす

森田汐生講師は、怒りを表現する語彙を増やすよう指導する。「語彙が少ないと、感情に飲み込まれて相手を罵倒してしまいがちです。語彙を増やし、自分の怒りの状態やレベルを“実況中継”すれば、相手を傷つけずに済みます。」

怒りを感じたら、その場その場で適切に言語化することが大切だ。「ムカムカする」「はらわたが煮えくり返る」「もうすぐキレそう」と、心の中でも紙の上でもいいから表現する。怒りが小さいうちの方が対処しやすいので、ため込まないよう心がけよう。これができれば、後々の大爆発を防げる。

・怒りの裏にある自分の「本当の気持ち」が何かをとらえること。

怒りの種類には「フラストレーション」「傷ついた怒り」「希望の怒り」の3つがあり、それぞれに本当の気持ちが隠されている。

・「フラストレーション」は欲求が満たされないイライラから来るもの。自分や他者を傷つけずに安全に発散できる方法を見つけておくのがポイント。

・「傷ついた怒り」の裏には深い悲しみや孤独感、絶望感などが隠れている。怒りの裏の傷ついた気持ちを認識して癒してあげない限り、いつまでも周りや自分を傷つけてしまう。

・「希望の怒り」は自分を生かしたい、会社や世の中を良くしたい、といった前向きなエネルギーがある。

怒り、それ自体は私たちの体の中にわき起こる自然な現象であり、責められることではない。だが、怒りを感じた後に「どう行動するか」については責任が伴う。怒りの種類を見極め、ネガティブな面とポジティブな面を理解しながら、建設的な形で表現する方法を身につけていく必要がある。

★第11回2006.12.05号
「いざ対決、そして解決へ 予告と基本ステップの整理がカギ」

◆下準備

1.時と場所を選ぶ

→相手が聞ける状態になる時間や場所を選ぶ。ちなみに「酒の席で切り出すのは避けるべき。相手からすれば後日「忘れた」と言い逃れしやすい」とのこと。

2.自己開示する

→話し合いに臨むに当たっての自分の心の状態を言語化する。「大変言いづらいのですが・・・」等。

3.肯定的に始める

→「あなたとの関係を改善したいと思うから言うのだけど」等。

◆本題に入ってから終了するまで

4.客観的な事実を述べる

→客観的、具体的、簡潔に。「あなたはいつも〜」などと決めつけない。

5.事実に対する感情をシンプルに言語化する

→自分がどのように感じたかを率直に。相手のせいにして責めない。主語はあくまで「私」。

6.要求の的を絞る

→相手に望む現実的具体的変化をひとつだけ、簡潔に伝える

7.相手に反応を求める

→相手がどのくらい理解しているか確認する

8.繰り返す

→話が別の方向に行かないように自分の要求を落ち着いて伝える。

9.会話を終了させる

→無理に「イエス」と言わせない。「ぜひご検討をお願いします」と言ってこちらから会話を終わらせ立ち去る。

本題に入ってからは「事実」→「感情」→「要求」→「結果」のアサーティブの基本ステップに沿って進めることを忘れずに。


★第12回2006.12.19号 「周囲の反発にめげないで 何のためにその行動を起こすのか」

「相手に真っすぐ向き合う」時の心構え

1. 今後の展望を持つ。長い目で見て相手とどんな関係を持ちたいのかよく考えておく。
2. これは問題解決の第一歩だと認識する。1回の話し合いで、すべてが解決できるはずはない。
3. 自分の責任も認める。これまできちんと問題点を伝えてこなかった自分にも責任の一端がある。
4. 相手を理解する。相手の行動や態度には何か理由があるのかもしれない。

「アサーティブネスは魔法の杖ではない。これさえあれば、すべての人間関係が改善されるというものではない。自分一人がアサーティブに意見を主張するようになっても、あなたを取り巻く環境は元のままの“非アサーティブ”な世界。周囲の人はあなたの変化に驚き、場合によっては反発することもあります。」

* いきなり大きな問題に取り組まない。最初は小さな問題から取り組み、自分ができることから一つ一つ変えていこう。
* 時にはアサーティブになれない自分もよしとしよう。どんな状態の自分も受け入れるのがアサーティブネスの思想だ。

アサーティブネスの4つの柱は「誠実」「率直」「対等」「自己責任」。そしてこの4つの柱を支える土台となるのが「自己信頼感」

自己信頼を高めるには

1. 今に至る自分の人生にいったんOKを出す。
2. 日常の小さな喜びをたくさん見つける。
3. 長期的な目標設定をする。長期的な目標を設定することで、自分と自分の人生を大切にするようになる。
いつかやれる状況になるのを「待つ」のはやめて、主体的に行動しよう。それがアサーティブな生き方だ。

「変えられないもの」と「変えられるもの」〜あなたができることから変えていこう

* 「相手」は変えられないが、「相手に対する自分の伝え方、態度」は変えられる。これを変えることを通して「より対等で親密な関係」が得られる可能性がある。
* 「大きなシステム(政治や社会構造)」は変えられないが、「システムへの関わり方」を変えることでより良いシステムになる可能性がある。
* 「過去」は変えられないが、「過去に対する評価」を変えることはできる。それにより、過去にとらわれずに今をイキイキ楽しめるかもしれない。
* 「天災や不慮の出来事」は変えられないが、「困難な状況への対処」は変えられる。これを乗り越え、前向きな生き方が手に入る可能性がある。