「低所得、未婚、非正規雇用の人ほど、体が弱かったり、体力がなかったり、運動が苦手という人が多い」

PRESIDENT 2006.7.3号は「特集:「金持ち」家族、「貧乏」家族」といういかにもボーナス前の特集なのだが、この特集の巻頭記事が、あの悪名高い「下流社会」の著者・三浦展氏による家計調査分析だった。
題名は「2000家計調査 上流、下流 あなたはどっちだ」。タイトルからしてまったく余計なお世話である。

記事内容も、相変わらずの論調で、読んでるうちにかなりげんなり。

団塊ジュニアは)三十歳になったら就職すればいいと気ままなフリーター生活を送ってきたら、いつのまにか正社員になるのも難しくなってしまった。

「気ままなフリーター」来ましたね、定番フレーズ。

今や妻を専業主婦で抱えられる三十代夫の経済力のボーダーラインは年収1000万ということになろう。専業主婦であり続けることにリスクを感じないで済む基準がそこまで上がっているのだ。だから、年収500万の男性と結婚して仕事を辞めた女性はリスク管理能力が低いと思われても仕方がない。

数的にはかなり多いと思われる年収500万で専業主婦のお宅に激しく失礼な物言い。

容姿うんぬんよりも、臆面もなく異性に喜ばれる格好ができるかどうかが決め手。異性に好印象を持ってもらうことに積極的になれないタイプの女性が、売れ残る傾向にあるのだ。

だからどうした。

人に評価されることに喜びを感じられる人は、仕事にも前向きな意欲を持つ人が多いから、勝ち組になりやすい。恋も仕事も同じ。女性も男性も一緒だろう。実際、上流の人に会ってみると皆、驚くほど明るくて健康的で素直だ。

そりゃあ「勝ち組」で「上流」なら余裕もあって「明るくて健康的で素直」でいられるだろう。それは単なる結果ではないのだろうか。

行き当たりばったりでお金を消費して、時間管理もいい加減という人ほど下流化しやすい。もっと言えば、私の調査では低所得、未婚、非正規雇用の人ほど、体が弱かったり、体力がなかったり、運動が苦手という人が多い。

これも原因と結果の因果関係がどうにもあやしい。何を持ってこんな風に言い切れるのか。運動能力の話にいたっては何をかいわんや。


こんな失礼千万・根拠不明の文章と一緒に「上流家庭の家計簿」「下流家庭の家計簿」と見開き4ページにわたってグラフが紹介してあるのだが、そのネーミングがまた挑発的。
「高学歴共働き勝ち組夫婦」「公務員勝ち組夫婦」「資産リッチ勝ち組夫婦」「金持ち子だくさん勝ち組夫婦」以上勝ち組パターン。
一方負け組パターンは「低学歴負け組夫婦」「低所得子だくさん負け組夫婦」「住宅ローン負け組夫婦」「教育費貧乏負け組夫婦」。
どうやらキーワードは「世帯年収1000万」「高学歴」「親の資産」あたりらしく、昨今言われている「再挑戦の機会」なんて発想はここからは見えない。


何と言っても低所得家庭の消費行動へのコメントがいやらしい。

「晩酌は『大五郎』。発泡酒購入はちょっとした“イベント”」とか、
「工場勤務の夫の楽しみはTVでプロ野球を見ながらの『発泡酒』」とか、
「週末は近所にある実家かファミレスで食事するくらい」とか、
「夫は家計を切り詰めるため、昼間はカップ麺で我慢することも。週2の飲み代は一回2000円以内に抑えている」とか。

こういう人たちは決して珍しくないだろう。でもプレジデント読者にはこういう人たちはまずいないから、こうやって引き合いに出しても平気、ということなのか。


この記事の直後が芥川賞作家であり僧侶である玄侑宗久氏の「『金銭的満足』と『心の豊かさ』の方程式」というのは、編集部の洒落なのか悪い冗談なのか。私にはよくわからない。


自分で自分のことを言う分にはかまわない。しかし他人を「上流」「下流」「勝ち組」「負け組」と一方的にランク付けして論評する心持ちそのものが、どうにも卑しく見えてしょうがないのだが。