また出たか三浦展「格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~」

橋本大也さんのPassion for the Futureで出ていた書評の題名でついうっかりクリックしてしまったら、それは三浦展氏の新作だった。(下記画像はアフェリエイトはしていないのでご安心を)

格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~ (宝島社新書)

格差が遺伝する! ~子どもの下流化を防ぐには~ (宝島社新書)

「小学校2〜6年の子どもを持つ母親1443人を対象にしたアンケート結果で、成績の良い子どもの家庭には、次のような条件がそろっていた」とのことなのだが。以下引用の引用。

・父親の所得が高い
・母親の結婚前の所得が高い
・父親、母親、祖父の学歴が高い
・母親が料理をするのが好きである
・父親が土日休みである

つまり、高所得高学歴で余裕のある家には、生活の質の高さがあり、それが意欲の高さにつながり、成績の高さにつながる。成績が良い子の家の父母は、てきぱきと仕事をしたり、将来設計をきちんと考える、前向きの傾向があるそうだ。

へえ。

まあそうかもね、と思いつつ、また来たか三浦展、の激しい既視感に襲われる。しかも今回は「母親が料理をするのが好きである」(なんで父親や祖父母じゃいけないんだ)とか「父親が土日休みである」(小売業に勤めるお父さんの立場はいかに)といった項目まで付け加えられて、さらに絶望的。

私の実家は自営業で所得が低く住民税は免除されていたし、両親は土日なく年中無休で働いていた。父親は中卒で母は高卒、祖父母に至っては学歴なんか聞いたことないがもしかしたら尋常小学校止まりかもしれない。なにせ貧しかった。母は料理はうまかったと思うが好きかどうかは聞いたことはなく、おそらく好き嫌い以前に義務感がかなり大きかったと想像する。そんな私だが一応成績はいい方で、県庁所在地の県立トップ進学校から国立大学にストレートで入学・卒業することができたのだが、こんな私のことは一体どう分析してくれるんだろうか。

橋本さんがいみじくも記事中で

このアンケート調査は、この本ではその全貌が示されていないので、どこまで正しいものなのか分からない部分もあるのだが、質問項目や結果分析が週刊誌の見出し風でわかりやすい。

と書いてくれているが、この週刊誌的わかりやすさが三浦氏の最大の特徴であり、ウケるところである。そして問題点でもある。
こういう問題がそんなにわかりやすく分類・ラベリングできるはずがないのだ。
一体誰の安心感を満たすためにこんな本が出てくるのか。格差を「ある」「変わらない」ことを喧伝して一体誰が得をするのか。こういう本に一喜一憂する前にそのあたりよーく考えるべきだろう。

書評の中で橋本さんが

この調査は初期条件(親の年収や学歴や行動パターン)による格差の固定を裏付ける趣旨だったが、逆に、初期条件が悪かったのに、格差を乗り越えたグループを調べてみたらどうだろうか。将来への希望とビジョンが見えてくる気がする。

とか、

ところで調査結果の中に「成績の良い子は勉強時間が長い」「成績の悪い子は勉強時間が短い」というデータがあった。いろいろな因果関係が分析されていて、この項目はあっさりとしか扱われなかったが、結局、本質は、勉強する時間の量なのではないのかなあと個人的には思った。

とさりげなく書かれているのには、激しく同意。
三浦氏は結局「消費」に結びつかない項目は細かく分析する気がないのではないかと邪推してしまう。

データの一つとして

・成績「上」の子どもの母親に「プレジデント・ファミリー」読者が多い

という項目も紹介されている。そういう価値観を是とし、それを目指して「いい遺伝子」を子どもに!という主旨の本なのだろう。

格差の流動性が低くなってきているというのは実感として感じなくもないが、この本に書かれていることが処方箋になるとはとても思えない。むしろますます「勝ち逃げ」を促進しているのではないか。