「ミッドライフクライシス(中年の危機)」は誰にでも訪れる「人生の正午」

AERA07.1.15号の記事「均等法世代の『折れる心』」。
読み進めていったら、見覚えのある言葉と名前が出てきて驚いた。

ミッドライフクライシス---。彼女らの状況を表す表現だ。日本語で言うと「中年の危機」。欧米では深刻な社会問題として広く認知されている。
人生半分を過ぎた40歳前後から、気力、体力の衰えを感じ、自分の人生が無意味に思え、深く落ち込んだり、「若さ」を失う焦燥感から無謀なことをしたりという症状が現れる、とされる。誰でもかかる可能性はあり、その時期も程度も症状も人それぞれだという。
「ここ数年ミッドライフクライシスに悩み、駆け込んでくる40歳前後の働く女性が増えてきました。均等法以来、女性の社会進出が一般化し、女性の自立が本当の意味で米国並みになったということなのでしょう」
そう分析するのは、臨床心理士、園田由紀さん。ミッドライフクライシスをテーマにした研修やワークショップを行うPDS総合研究所を主宰している。
園田さんは、ミッドライフクライシスを「キャリア、結婚、出産など社会での立場を確立する青年期から、自分固有の人生を生きようとする中年期への移行期に起きる心の成長過程」と説明する。
それまで自分が選ばなかった、または価値を見出さなかった潜在的欲求が噴出し、急に現在の生活が無価値に思え、なぜもっと早く気がつかなかったのかと混乱に陥るのだという。

こんなところに園田先生が。いや確かにPDS総合研究所は「ミッドライフクライシス」もテーマにされているが、私たちにはむしろ心理アセスメントツール・MBTI(Myers Briggs Type Indicator)のお師匠さんとして非常にお世話になっている先生。日本MBTI協会の代表理事でもある。

MBTIはユングのタイプ論をベースにしたアセスメントツールであり、ミッドライフクライシス(中年の危機)という言葉ももともとはユングの心の発達理論の中のひとつだ。ユングは40歳頃を人生の折り返し地点という意味で「人生の正午」と呼び、その時期(概ね男性は40代、女性は30代)が移行期としての「中年の危機」が置きがちだという。実際はもちろん記事にもあるように個人差が大きい。ユングについては河合隼雄先生の「ユング心理学入門」を読んでいただくのがまずは手っとり早いだろう。この中のアニマ・アニムスの項でちょうど中年期に思いがけない恋に落ちてしまう「男性の四十代の恋」について書かれていて「だから男の人は『えっ、あの人が』と思うような人が四十代にいきなり恋に落ちてしまったりするのか!」と激しく納得し、これも一種の「中年の危機」の現れかも、と思ったのだが、それはともかく。

この年代でキャリアに悩んでいる方から実際に話を聞くと「自分の人生が無意味に思え、深く落ち込んだり」「それまで自分が選ばなかった、または価値を見出さなかった潜在的欲求が噴出し、急に現在の生活が無価値に思え」という状態であることが確かにある。その場合は「中年の危機」である可能性も考え、MBTIを使った自己理解を入り口にカウンセリングを進めることもある。単純な目の前の問題解決ではすまない場合もあるからだ。

記事ではその後さらに「ミッドライフクライシスに苦しむ40代女性」の事例を紹介し、さらに園田先生のコメントをはさむ。

前出の園田さんは、ミッドライフクライシスを「その後の人生を充実させるために誰にでも必要な『創造的な病』」とし、だから予防を考えることは無意味だという。ただし、あまりにつらい場合は、ヨウコさんのように臨床心理士精神科医の手を借りることも大切なことだそう。
「かけがえのない人生でいかに自分をまっとうするかを考えるのがミッドライフクライシス。噴出してきた心の問題から逃げずに、向き合い続けることが必要です。その上で、自分は何を大切にしてきたのかを再認識し、それは自分が本当に望んだことだったのか、それとも社会に迎合してきたのかを考える。時間はかかっても人生後半への指針は見えてきます」

自分が何をしてきて、何をしてこなかったか。ミッドライフクライシスはしてこなかった「影の自分」からのメッセージを受け取る時期と言えるかもしれない。

記事では女性のみ事例があるが、もちろん男性も同様にミッドライフクライシス(中年の危機)は訪れる可能性がある。そして園田先生が言うように、時間はかかってもここを乗り切れば人生の午後を指針を持って生きられるだろう。

ユング心理学入門

ユング心理学入門

MBTIへの招待―C.G.ユングの「タイプ論」の応用と展開

MBTIへの招待―C.G.ユングの「タイプ論」の応用と展開

  • 作者: ロジャーペアマン,サラアルブリットン,Roger R. Pearman,Sarah C. Albritton,園田由紀
  • 出版社/メーカー: 金子書房
  • 発売日: 2002/07
  • メディア: 単行本
  • 購入: 2人 クリック: 10回
  • この商品を含むブログ (9件) を見る