社会心理学者からの提言:非被災者を含む一般市民を対象として(メディア、ネットでの情報収集、噂)

大変な被害を招いた今回の東北関東大震災。被災された皆様に謹んでお見舞い申し上げます。

地震津波原発事故と三つが重なった甚大災害を前に、被災地の方はもちろんのこと、被災地以外の地域にいらっしゃる方も緊張感の中で落ち着かない日々を過ごされる方が多いと思います。

日本社会心理学会運営の「東北地方太平洋沖地震に関する社会心理学者からの提言」というサイトに、非被災地の方向けに社会心理学の知見を応用した「提言:非被災者を含む一般市民を対象としたもの」というカテゴリがあります。この中からいくつか身近な話題(メディア、ネットでの情報収集、噂)についてピックアップして、ポイントを抜粋してご紹介いたします。(太字強調は管理人)

メディア報道の理解と解釈―近接被災者(ライフラインの断絶程度の比較的軽微な被害を受けた被災者)と非被災地、またはメディア自身へ向けて
小城英子氏(聖心女子大学文学部専任講師)

1.報道の質的・量的限界を想定する

・テレビに映し出されている避難所は、中継車が入れるだけの交通条件が整っている、すなわち、被害が(相対的に)小さく、救援も早かった地域
・同時にもっと甚大な被害があり、救援さえもたどり着いていない地域が存在している
被害の全容がわかるまでは、一部の復旧をすべてと認識してはなりません
惨状は、視聴者の想像を超えたものであることを前提として理解してください

2.テレビを通じた二次的外傷から自分を守る

・二次的外傷とは、直接被災者(家族や家を失うなど、もっとも被害の大きい被災者)の負った心的外傷が、救援やボランティア、取材活動などを通じて、第三者へ拡大していくこと
・テレビを通じた二次的外傷によって、支援すべき立場の人間がつぶれてはならない
・今、非被災地に求められていることは、強力な支援体制。被災地に共感しつつも、テレビを通じた二次的外傷から自分を守り、持続的に支援できる体制を整えることが、非被災地の役割
・緊急事態を脱したら、一日のダイジェストを確認する程度にとどめ、震災報道を長時間見続けないように注意しましょう

3.被害をドラマ化しない

センセーショナリズムは、視聴者の関心を呼び、情緒を煽る効果はあるものの、以下のようにデメリットの方が大きいことが指摘されています。

被害の全容や実態を過大・過小評価するなど、事態に対する正確な理解を妨げる。
・感情的になって、不要な避難行動をとったり、無計画に被災地へ駆けつけて混乱を招くなど、不適切な行動を誘発する。
・ドラマを見ているような感覚に陥り、現実の認識が薄くなる。結果として、被災地支援の動きが鈍ったり、自身の防災対策の甘さにつながる
ナレーションやBGMが画一的な感情を視聴者に強制し、視聴者自身の思考や判断を妨害する。
・被災者自身に対しては、自身もまだ受け入れられていない悲劇が、おもしろおかしくドラマ仕立てにされて、見世物にされているという二重の打撃を与える。

4.防災用品・生活用品の買い占め報道に踊らされない

・メディアは、事実を正確に報道しようとしているのですが、結果的にメディア・イベント(メディア自身が事件を作りだして報じること)となっている

5.復旧期以降こそ支援を

復興の道のりは、複雑で長いのです。メディアも非被災地も、復旧期以降こそ、継続した支援をする覚悟が必要です。今の心の痛みを、5年後も、10年後も、決して忘れないこと。

ネットで情報収集する際に注意したいこと
小林哲郎氏(国立情報学研究所助教

ネット上では自分が見たい情報ばかり見てしまうという事態が生じやすくなっています。これを選択的接触といいます

・人間には自分の先入観に合致する証拠ばかり集めてしまう期待確証の傾向があります

・その結果、ネット上では元々自分が持っていた期待や予想に合致した情報ばかりを集めてしまうことがあります

ツイッターでは自分がフォローしている人の原発事故の現状認識に偏りがあった場合、実際には「危機的な状況ではない」という認識が多数派であったとしても、危機感の極めて強い人々ばかりをフォローしていれば「危機的な状況である」という意見が多数派であると判断してしまいがち

・実際、ネット上では「自分の意見は多数派だ」と思っている人ほど自分の意見を投稿しやすく、「自分の意見は少数派だ」と思っている人ほど自分の意見を投稿しにくい

・人には元々自分が持っていた期待や予想に合致した情報ばかりを集めてしまう傾向があります。不確実な状況では多数派に流されることが多いので、こうした偏った意見分布の認知には大いに注意

・「結局誰が言っていることが正しいのかわからなくなる」のは、人々に判断の知識や能力がないからだけでなく、ネット自体が誰もが発信できるフラットな構造であるため、そもそも「情報の正しさ」を保証するメディアとしては機能しにくい

・ネット上の情報だけで判断し、行動するのは危険

・マスメディアの報道も自分で見て、できるだけバランスのよい情報収集を心掛けましょう。そして何より周りの人たちと冷静に話し合うことが、正確な判断と行動のためには必要


噂に惑わされないために
竹中一平氏岡山短期大学幼児教育学科専任講師)

1.噂(うわさ)とは何か?

・噂=「人づてに聞く本当かどうかはっきりしない情報
・その情報が、噂なのか、クチコミ情報なのか、デマなのかを判断するためには、それぞれにどういう「ラベル」が付いているのかではなく、内容が根拠のある、はっきりとした情報かどうかで判断

2.どういう状況で噂(うわさ)は発生しやすいのか?

・(1)不安が蔓延する社会状況であること、(2)多くの人に共通して関係する重要な事柄について問題が発生していること、(3)あいまいでよく分からない状況であること、の3つが、噂が発生しやすい条件
大規模な災害が発生した後は、このような条件を満たす社会状況となります

3.噂(うわさ)が広がるとはどういうことか?

・「伝達行動による情報の伝達」と「確認行動による情報の伝達」
・噂を広げないためには、確証がない情報を人に「話さない」ようにするだけではなく、安易に人に聞いて「確認しない」ようにすることも必要

4.噂(うわさ)は変化する?

社会心理学の研究の成果から、大きく3つの変化が起こることが分かっています。

1つ目は、情報が伝わるにしたがって、ややこしい説明や理解しにくい部分、話した人が些末だと思った部分などが抜け落ちていきます。これは「平均化」と呼ばれています。
2つ目は、平均化と共に起こる変化で、話の中で使われている数や量、大きさ、特徴、目立つ部分が強調されていきます。これは「強調化」と呼ばれています。
最後の3つ目は、「同化」と呼ばれます。噂は、積極的に伝えたいという気持ちや、よく分からなくて心配だから確認したいという気持ちに裏打ちされて話されます。そのため、噂を話す本人が最も関心を持っている内容に重点が置かれることになります。

話される内容は、話す本人や聞く相手の価値観に沿った形に変化し、本人や相手の興味・関心に近づく形で省略されたり強調されたりし、元の内容からは歪んでいく

5.噂(うわさ)に惑わされないとはどういうことか?

間違った情報を伝えない
・可能なかぎり、確実に確認できるような情報源に問い合わせる
・出来うる限り、正確な情報を得るように努めることで、噂に惑わされない判断が可能になる

・「不安」が強い状況では、人と寄り添い、不安を共有し、安心を得ようとする「親和欲求」が強まる
・会話の中で、「本当かどうかよく分からないんだけれど、こんな話を聞いたんだよね。怖いよね」という内容を含まないように、ほんの少しで結構ですので、心がけていただけると嬉しいです

※詳細はリンク先原文をご確認いただければ幸いです。