嗜癖システムの中では誰もが他者をコントロールしようとする

ハマリぐせに効く『嗜癖する社会』(NB Online:2006/10/25)
アディクション、つまり「嗜癖」について書かれた本のレビュー。
嗜癖」というのは聞きなれない言葉だが、意味としてはこう。

 ある習慣への病的な執着状態を、専門用語で「嗜癖アディクション)」という。治療の現場では、生理的な依存状態を示す「中毒」とは区別されて使われている。つまり、酒にのめり込んだ(嗜癖した)結果として中毒になるのだ。

 『嗜癖する社会』の著者は、アルコールなどへの依存症問題にセラピストなどとして長年取り組んできた米国人女性。依存症というとアルコールや薬物を思い浮かべがちだが、嗜癖の対象は飲食物などの物質に限らない。蓄財やギャンブル、買い物、仕事など行為の過程を対象とする「プロセス嗜癖」や、恋人などの人間関係に溺れてしまう「関係嗜癖」などがあるという。

嗜癖を起こすのは意志の弱さと誤解されやすいが、そうではない。基礎となっているのは「コントロール幻想」なのだ。

嗜癖システムの中では誰もが他者をコントロールしようとしています。家族は嗜癖者をコントロールしようと試み、嗜癖者は家族をコントロールしようとします。誰もが他の人の操作をしようとしています。嗜癖が悪化するにつれてコントロールへの欲求は高まりますが、誰もが支配力を手に入れられるという信仰は幻想にすぎません」

嗜癖者とその周囲の人(例えばアルコール依存者とその家族)の関係を「co-dependency」と表現する。この英語を「共依存」と訳したために「お互い依存して何が悪い」という誤解を生むことが多いようだが、ただ頼り合っているのではなく、その中にあるのは実はお互いをコントロールしようとするパワーゲームである。そこにあるのは自他の区別のない、どろどろに溶けた二つの自我の融合体だ。

嗜癖を絶つには、パワーゲームから「降りる」ことが欠かせない。そのための有名なprincipalがAA(Alcoholics Anonymous)などで使われる「12ステップ」だ。
自分の嗜癖する対象に対して自分が無力であることをまず認める。そして自らをもっと大きな力(Higher Power)の配慮にゆだねる決心をし、自分の過ちを認め、傷つけた人たちのリストを作り、埋め合わせを行っていく。
12ステップについて詳しく知りたい方はこちらを→AA 12のステップAlcoholics Anonymous®(of Japan))

ちなみにこういう知識をどこから得たかというと、アダルトチルドレンとしてカウンセリングを受けていた時期に読んだ本である。必ずと言っていいくらい自助グループの話になり、12ステップが出てくる。嗜癖の世界では常識と言ってもいいのかもしれない。