読売新聞連載「『ニート』の本音」

一時期ほどにはマスコミに登場することが少なくなった「ニート」という言葉を、久しぶりに見たのは読売新聞に掲載されたコラムだった。
NPO法人「育て上げ」ネット理事長の工藤 啓(くどう・けい)さんが「『ニート』の本音」という題名で3回にわたって連載コラムを書かれた。
工藤さんは淡々と、でも暖かい目を持ちながら、世間の人たちには誤解されやすいニートの人たちの気持ちについて丁寧に書かれている。その一部をご紹介したい。

【ニートの本音】(1) 昼夜逆転生活、本当の理由 (5月30日)

 明け方に就寝し、夕方ごろに起きる。テレビを見るか、ゲームか、ネットゲームか――。何をしていたのかを聞く前に大体わかっているが、「だらけた生活を送る怠慢な若者」と判断するのは早計である。大切なのは、なぜ、昼夜逆転するのかを考えることだ。

 夜中に若者がコンビニエンスストアにいても、誰も違和感を持たない。ある若者は「夜の外出は近所の噂(うわさ)にならず、家族を巻き込まないで済む。行動は深夜しかできない」と語った。

 なぜ毎日、昼間からゲームをし続けるのか。「日中、ふがいない自分を意識し続けると苦しいんです。ゲームが楽しいなんて思ってない。明日こそはと考えられる夜まで時間を早送りしているんです」と、別の若者は話していた。

 変化のない生活は、家族との会話を阻害する。本人も家族も、何を話題にしていいのかわからなくなるからだ。働く不安を聞いてもらいたいが、否定されるのが怖くて話せない。家族が寝静まる時間帯にしか動けなくなる。生活が夜型になるのは当然なのだ。

世間の目を気にし、家族を気にする結果、必然的に自由に活動できるのが夜に限られてしまう。
そういった事情を少しでも斟酌した「ニート記事」は果たしてこれまでどのくらいあっただろうか。

【ニートの本音】(2) 「きまじめさ」…実は力の源 (6月13日)

 「失敗してもいい。消極的にならずに、まずはやってみるべき」というが、一歩踏み出したい気持ちを持っていても、それが難しい。背景には、失敗への恐れ以上に、他人への迷惑を過剰なまでに意識してしまう「きまじめさ」にある気がする。

 自分の言葉や行動が場の空気を壊したり、誰かの気分を害したりすることに必要以上の不安や恐れを抱く。結果として、他人とのかかわりが希薄になり、自らを孤立させてしまう。こうしたことは、きまじめさゆえだと考えると説明がつく。

私の知人で、やはりお子さんがニートになってしまっている方がいる。おそらくきっかけは就職活動らしいのだが、なかなか動き出せなかったらしい。ただ、家族関係の変化(祖母の死を一人で看取った)などから、少しずつではあるが最近変化が見え始めているらしい。
その話を最初に聞いた時は、過剰なプライドとか自己愛が関係しているのだろうか、とか、典型的な企業戦士の父親を反面教師にしてしまい、企業で働くことへのネガティブな印象を持ってしまったのだろうか、とか考えたりしたが、工藤さんのこの記事を読んで「きまじめすぎる」「自分の言動が誰かを不快にさせることへの極端な不安」がその人を結果的にニートにならざるを得なくしてしまったのかもしれない、とも思った。もちろん本当のところはわからないのだが。

 ただ、このきまじめさは大きな魅力でもある。それが、他人への気遣いや物事を継続する力の源泉になることを、私は支援活動を通じて目の当たりにしている。社会は、「なぜニートになるのか」より、「彼らの魅力をどう引き出し、どう生かしていくのか」を考えるべきではないだろうか。

そう、原因探しをしてもきりがないし効果は見えにくい。「これからどうしていくのか」を考える方向にしていかないと。

【ニートの本音】(3)「働けない」のは自己責任か (6月27日)

ある若者は、クラスのリーダー的存在と対立したことで、小中学校の期間を“存在しない人間”として扱われ続け、極度の対人不安を抱えるようになった

ひどいアトピー性皮膚炎を理由にいじめを受けた。学校に行けなくなった時、「いじめられる側にも責任はある」と担任から指導され、他者に相談することができなくなった

 OB訪問で、「君みたいな人間を採用する企業はないからフリーターでもやったら」と言われた女性は、自尊心を失い、外出できなくなった。営業職で入社した男性は、過剰なノルマに加えて先輩から日常的に暴力をふるわれ、スーツを着ると全身から脂汗が止まらないようになり、退社した。

 乗り越えられない個人が問題なのではなく、乗り越えさせない社会の問題だと考えるのは、無理があるだろうか。

いじめ、虐待、暴力などの結果ニートという状態になっている人たちを前に、とても「自己責任」とは私は言えない。たまたま自分は運良く職を得て働き続けることができているだけなのだ。
社会のさまざまな歪みのひとつの現れなのだととらえて構わないと思う。


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