「平成18年版 労働経済の分析」は必読

いわゆる「労働経済白書」のことだが、最新版がWebで公開されており、新聞記事にもなっている。

平成18年版労働経済の分析(本文版)厚生労働省
平成18年版労働経済の分析(要約版)厚生労働省

20代の所得格差広がる 労働経済白書asahi.com:2006/08/08)

 90年代以降、非正社員は全年齢層で増加してきたが、特に若者で上昇している。年齢別の比率は92年からの10年間で、20〜24歳では10.7%から31.8%と約3倍。25〜29歳では11.6%から22.7%に増えた。

 この間の20代の年収は、150万円未満の層が15.3%から21.8%に増えた。150万以上〜400万円未満の層は、いずれも92年より02年が下がった=グラフ。一方で、500万円以上が2.9%から3.2%と20代で格差が広がる傾向になっている。

 白書では、所得が低く親と同居している非正社員の若者が、今後自立しなければならなくなったときの格差の拡大や固定化などを懸念している。

20代の収入格差拡大「非婚、少子化を促進」…労働経済白書(YOMIURI ON-LINE:2006/08/08)

 20〜34歳で配偶者がいる割合を雇用形態の違いで比較すると、正規雇用と比べて「非正規雇用」がほぼ半分、「パート・アルバイトなど」は約3分の1にとどまった。収入が少ないことが、結婚の障害となっていると見られる。白書は「少子化の主因は若年層を中心に配偶者がいる人が減ったこと」と分析している。

新聞は格差ネタが好きなのでほとんどそのことしか書いていないが、ここ1〜2年の労働経済関係の調査などをまとめて解説している。ざっと見てみたところ、概ね実態に則していて恣意的な編集はされていないようなので、今の日本の労働経済の動きを知るには適切な資料ではないかと思う。

例えば入社3年以内の離職率が90年以降横ばい状態(高卒で40〜50%、大卒で20〜30%)であること。

また仕事のストレスの性別・年齢別年齢階層別順位などかなり興味深いデータとなっている。
男性で40代がストレスを「強く感じる」+「やや強く感じる」という回答で他の階層を抑えトップを取っているのが

  • 責任が重すぎる
  • 相談する相手がいない
  • 働く時間が長い
  • 会社の将来性に対する不安
  • 自分の雇用の安定性に対する不安
  • 仕事の成果が過度に重視される
  • 仕事量が多い

と、11項目中6項目も。ちなみに他の年代を見ると
20代→「仕事が適正にあわない」
50代→「情報化・技術革新への対応が困難」「職場環境が悪い」「職場の人間関係が悪い」
があがっていて、30代は2位に4項目(「会社の将来性に対する不安」「自分の雇用の安定性に対する不安」「仕事量が多い」「職場環境が悪い」)。と言うか、ストレスの激しい上と下にはさまれて黙々と働いているのかもしれない。

あとは第二章の第二部で「望まれるキャリア教育」としてやたら期待をされていたり、「年齢階級別非正規雇用比率の変化」の図で2002年度に20代の非正規雇用比率が前回調査に比べて倍増していたり、第一章第一節で「年齢階級別完全失業率の推移」の図を見ると、明らかに玄田さんが「仕事のなかの曖昧な不安」で書かれていた「中高年保護・若年層へのしわよせ」があったことが一目瞭然だったり。

なかなか盛りだくさんで、特に人事労務やキャリア開発などにたずさわる方にはぜひ全体に目を通しておいていただきたいところ。私は厚労省のページでPDFで見るのがかったるくなり、冊子で読めないかと厚労省に電話して聞いてみたところ、8月11日に書店で一般向けを発売するとのこと。一冊2500円。また表紙が一般向けと若干違っていてもよければ、厚労省に出向けば分けてもらえるそうだ。

仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 (中公文庫)

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