能楽と心理療法

実は私は昨年からお能を習っているのだが、以前「ワキから見る能世界 (生活人新書)」というワキ方の方が書いた本を読み、その中で「ワキはシテの話を引き出して聴く。その役割はある意味カウンセラー的である」ということが書いてあって「なるほど」と感心したことがあった。
そういう風にカウンセリングと能楽を結びつけて考えるのは、どちらも経験の浅い私には両方の理解を深める上で面白そうだしなかなかない切り口かも、と思っていたのだが、どっこいそういう視点で書かれた本は既に存在していた。600年の芸能をあなどってはいけない。ましてやあんなミニマムに内省的表現がされるものなのだから、精神に触れる仕事をしている人が目をつけないはずがない。
それは前田重治先生の「「芸」に学ぶ心理面接法―初心者のための心覚え」と「芸論からみた心理面接―初心者のために」の二冊。

芸論からみた心理面接―初心者のために

芸論からみた心理面接―初心者のために

2冊とも「心理療法」の授業で参考書籍として紹介されて知った。
紀伊国屋Bookwebでの内容・目次情報は下記の通り。

「芸」に学ぶ心理面接法―初心者のための心覚え

いろいろな領域で名人達人と謳われた人びとの芸談や芸術論の言葉のなかより、心理療法やカウンセリングにおける治療者の心得、技術、修業に通じる名言を集めた箴言集。
それぞれについて著者による臨床心理学的な解説がなされ、心理面接のコツを伝えようとする味わい深い入門書である。

第1部 「芸」と心理面接(「芸」とは;心理面接 ほか)
第2部 芸論を読む(世阿弥能楽論集」を読む;スタニスラフスキイ『俳優修業』のねらい ほか)
第3部 芸論心覚え(面接;面接者 ほか)
第4部 臨床家による語録抄(面接;面接者 ほか)

芸論からみた心理面接―初心者のために

本書は、先に刊行した『「芸」に学ぶ心理面接法』の姉妹編である。
「芸」の世界は、理屈でわかろうとするよりも、直接に感じとって味わうべきものである。
これらの芸論の一つひとつは、面接について実にうまく語られている「比喩」のようにみえる。
それらは面接者の想像の翼が大きく羽ばたくように作用する「触媒」であり、一方、自分の想いをじっくりと煮詰めることのできる貴重な「るつぼ」でもある。

第1部 「芸」と面接の比較(「芸」は面接の機能と通じている;「芸」と面接の技法は似ている;「芸」と面接との違い)
第2部 芸論に想う(異化について;虚実皮膜の間;直観について)
第3部 面接芸論メモ(面接と芸論;面接者と芸論;面接過程と芸論)

これは激しく読みたい!
スタニスラフスキィの「俳優修業」も高校時代演劇部にいたので一度は読んだはず。ただし記憶にはないけれど。その概要を「TRAILOR LABO」で読むことができる。いい時代になったものだ。感謝。尚世阿弥の「能楽論集」は未読。

学校の図書館で検索したら、さすがにマニアックすぎるのか蔵書はなかったが、東京都公立図書館横断検索で調べたら、どちらも中央図書館に所蔵がある模様。ただしここは貸出はしていないので、読むなら現地に行くしかない。さあどうしよう。

関係ないが、同様に授業で紹介された「方法としての面接―臨床家のために」はK井先生に「古くて薄いけどすごくいい本!ぜひ手元に一冊」と強力にお薦めされたため、即購入。

方法としての面接―臨床家のために

方法としての面接―臨床家のために

あと薦められたのは神田橋條治先生の「追補 精神科診断面接のコツ」。最近の神田橋先生(及びそのファンのみなさん)に対しては正直ちょっと引き気味になってしまうんだけど、と付け加えつつ、でもこの本はいいですよと。

追補 精神科診断面接のコツ

追補 精神科診断面接のコツ