「特にネットの普及で自殺者の数が増えている」ってどこの話だろう

昨今マスコミの皆さんがこぞって取り上げ、マスコミ内ホットエントリになっているキーワード「硫化水素自殺」。練炭の次のターゲットを見つけて喜々としているように感じる私は意地悪か。
だいたいこんなに一気に硫化水素の発生方法なんてことが広まるのは、「硫化水素キャンペーン」と言えるぐらいにテレビや新聞で毎日毎時報道しているからで、ネットでそれがわかるというのはおまけでしかないんじゃないの?と思ったりしていたのだが、はてなブックマークで人気エントリになっている「 続々・インターネットに「自殺幇助」を転嫁するマスコミ − 黙認・放置された「遺言」」を読むと、自殺者の遺言にまさしくそういう記述があったという。それも毎日新聞の記事に。

硫化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(1) ネット情報拡散、47人死亡 巻き添えも急増(毎日新聞:社会) より

 高知県香南市市営住宅で23日に自殺した中学3年の女子生徒(14)は、硫化水素による自殺方法を「テレビで見て知った」と書き残していた。県警香南署によると、生徒の自宅にはパソコンなどの機器はなく、ニュースなどから知識を得たとみられるという。

ほら見ろ、と言いたいところだが、でも社説を書くような現場から距離がある方々はそういう事実は存在しないことにしたいらしい。
続々々・インターネットに「自殺幇助」を転嫁するマスコミ − 終わらない「集中砲火」」を読むと、こんな驚くような記述があることが書かれている。

硫化水素自殺 二次被害より一層深刻だ(産経新聞:主張) より

 自殺は連鎖反応的に起きるケースが多い。インターネットで自殺を呼びかけ、見知らぬ者同士が集団で練炭を使った自殺が、つい最近まで続発した。

 自殺は連鎖反応的に起きるケースが多い。インターネットで自殺を呼びかけ、見知らぬ者同士が集団で練炭を使った自殺が、つい最近まで続発した。

 硫化水素自殺も、きっかけはインターネットだ。発生方法を具体的に説明した内容がネットに書き込まれ、若者を中心に自殺志願者の間に広がった。

 二次被害が憂慮されるだけに、警察庁も対策に乗り出したのは当然である。周囲を巻き添えにするような書き込みを「有害情報」に指定、ネット接続業者(プロバイダー)などに書き込みの削除を要請した。

 警察当局には、自殺を誘発するような具体的な書き込みや文言は厳しく取り締まってほしい。

 日本では毎年、約3万人が貴い命を自ら絶っている。特にネットの普及で自殺者の数が増えているのが実情である

ネットの普及で自殺者の数が増えている?それ本当?
自殺手段の入手方法については知るよしがないが、年齢と手段を切り口に推測してみよう。
自殺者の現状を知るには、まずは公式発表の統計。「警察 自殺 統計」で検索すると簡単にたどりつける警察庁平成18年中における自殺の概要資料を見る。

2 年齢別状況( 表2 関係)
「60歳以上」が11,120人で全体の34.6 %を占め、次いで「50歳代」( 7,246人、22.5%)、「40歳代」(5,008人、15.6%)、「30歳代」(4,497人、14.0%)の順となっている。

4 原因・動機別状況( 表4 関係)
「健康問題」が4 ,341人で遺書ありの自殺者の41.5%を占め、次いで「経済・生活問題」(3,010人、28.8%)、「家庭問題」(1,043人、10.0%)、「勤務問題」(709人、
6.8% )の順となっている。

「補表5 年齢別自殺者数の推移」を見ると、昭和53年の19歳以下の自殺者は866人で平成18年は623人。50歳代は2,753人→7,246人、60歳以上6,024人→11,120人。50代がこんなに激増していたとは。

また厚生労働省が出している「自殺死亡統計の概況」にある「第3表 性・手段別自殺死亡数構成割合の年次推移」を見てみる。
昭和25年以降の推移が出ているが、男性・女性とも半数以上を占めるのは縊首。二番目は男性はガス、女性は飛び降り。しかし昭和25年は男女とも薬物だ。「その他」は6%前後で大きく増えている様子はない。
これをグラフ化した「7.手段別にみた自殺」の「(1)年次比較」には

 手段別の自殺死亡数の割合をみると、男は昭和28年〜35年、女は昭和27年〜37年において「薬物」が最も多く、その後激減している。
 その他の年次は「縊首(いしゅ)」が最も多く、男女ともに増加傾向となっている。 (図9、統計表第3表)

とあり、「(2)年齢階級別」には

 平成15年における手段別の自殺死亡数の割合を性・年齢階級(10歳階級)別にみると、男女ともすべての年齢階級で「縊首」による割合が最も多く、60歳以上の男、70歳以上の女では70%を超えている。
 次いで、男で2番目に多い「ガス」をみると、特に30代・40代では20%前後となっている。一方、女では2番目に多い「飛び降り」をみると、10歳代・20歳代・30歳代では25%前後となっている。(図10)

とある。

平成15年というのが少々古いとしても、ネットの普及で自殺者の数が増えているなんてことを言い切れる材料があるとは思えない。それとも産経社説子は何かその証拠を持っていらっしゃるのか。