本当の格差は「消費の格差」〜大竹先生の「経済財政白書」へのコメント

経済財政白書へのコメント大竹文雄のブログ:2006/07/21)

最新の分析手法とデータを用いて多方面から日本経済の現状が分析されている。白書を読めば、現在の日本経済の状況がよく理解できる。ただし、手法も含めて完全に理解できるのは、経済学の専門的訓練を受けたものに限られるかもしれない。

なんてジャブをかましつつ、ポイントをピックアップ。

第二章では、企業行動について、様々な観点から分析されている。その中で、製造業では雇用調整速度が2000年代に次第に上がってきたこと、その背景には債務規律が効いてきたという議論がある。日本では、赤字というような明確な経営危機でないと解雇が認められにくい。そのため、経営危機が顕在化するまで解雇できなかったというのが実情ではないか。また、従業員重視の企業は業績がいいという分析があるが、業績がいいからこそ長い間労働者を雇えるという面もあるので、因果関係を証明するのは難しい。

「経営危機が顕在化するまで解雇できなかった」「業績がいいからこそ長い間労働者を雇えるという面もあるので、因果関係を証明するのは難しい」このあたり、まったくその通りとうなづくばかり。

第3章では、経済格差の問題を最新のデータを用いて、多面的に分析している。日本の格差拡大要因としては高齢化や世帯規模が重要だということ、最近では若年層における格差拡大が重要だということが、最新のデータで改めて確認されている。ただ、所得の格差はあまり拡大していないが、白書に示されている通り、消費の格差は30代、40代でかなり拡大傾向にある。所得の格差は一時点で見るが、消費の格差は生涯所得や資産の格差なので、これが本当の格差だ。その消費の格差が30代、40代を中心に、過去10年間で見ても拡大しているので、これが格差社会の現実ではないか。

そうか、この「消費の格差」が「下流」という言葉とそれに対する支持を生み出しているのだ、と深く納得。
三浦氏は大竹先生の「日本の不平等」や「経済学的思考のセンス」をきちんと読んでから発言していただきたいものだ。

また、米国での格差拡大の実態とその理由についての議論を比較する形で、日本の格差の議論を行っておけば、日本の現状をより深く理解することができたのではないだろうか。

という指摘もごもっとも。犯人探しに懸命になるよりも実態をもっと正確に理解することの方が求められていると強く思う。

白書のソースはこちら↓
平成18年度版 年次経済財政報告書