「質問するのがコーチングでしょ」の大間違い

とってもありがちなのでご紹介。
@IT自分戦略研究所の記事「SEのコミュニケーション力、アップ宣言!」より。

 ここで、私の失敗談を紹介しましょう。私はコミュニケーションのコツを、いまはやりのコーチングに求めました。

 コーチングを学ぶと、最初にでてくるのが傾聴のスキル、つまり話を聴くことです。

 ある日、私は若いSEと話をする機会がありました。コーチングで学んだテクニックを駆使して、彼の話をじっくり聴いてみました。若いSEは思う存分話をしているように見えました、そして私自身も相手の気持ちをよく聴いたと満足していたときです。最後に彼がひと言、「今日は何だか、探られているように感じました」。

 なぜでしょうか。テクニックだけでなく、誠心誠意話を聞いていたと思っていたのですが。彼の言葉はグサリと私の心に突き刺さりました。私の傾聴は、事情聴取になっていたのです!

まず「いまはやりの」と枕詞をつけている時点でダメ。謙遜しているのかもしれないが、流行っているからちょっと使ってみるか、という単なるスキルとしてしかとらえてない現れ。
次に「テクニックを駆使して」というところもダメ。何のためにこの会話をしているのか。若いSEさんではなく、自分が何を質問するかに意識が集まっていたとしか思えない。もっと言えば、「コーチングという新しい手法を使って若手の話をじっくり聴いてる自分」への陶酔すら感じる。
そういう意識だから、自分は「誠心誠意話を聞いていた」と勘違いしたまま会話が進んだのだろう。この若いSEさんが「今日は何だか、探られているように感じました」と言ってくれたのはありがたいフィードバックで、あまり関係ができていない相手だったら何も言わず終わっていたはずだ。

その時のやりとりを想像すると、おそらく質問→回答→質問→回答という流れで、もらった回答へのフィードバックなしにさらに次々と質問を重ねていったのではないかと思う。私自身、GCDFのトレーニングでクライアント役をやっている時に尋問されたような気持ちになるのはたいていそういうやりとりの時だ。いくら回答を「うなづいて」「共感的に」聞かれ、「要約」されたとしても、カウンセラーの聞きたいことだけ聞き続けられては、クライアントの話したいことが話せたとは思えず、これ以上このカウンセラーには話は続けたくないと感じる。


これに関連して、たまたま今朝読んだコーチ・トゥエンティワンからのメールマガジンのコラムを思い出した。

Coach's View No.126 『質問の前提』 鈴木義幸

要約すると

  • 質問には前提があり、それは「肯定」と「否定」に分けられる。
  • 「あなたはできている、やれている、能力がある」といったような「肯定」を前提とするか、もしくは、「あなたはできない、知らない、たぶんできない」 といった「否定」を前提とするか。
  • 「○○については知ってる?」 「○○について考えたことある?」という質問は基本的に「知らないはずだ」「考えていないだろう」という否定を前提とした質問。質問された方は「自分を否定された」と捉えかねない。
  • 「○○についてはどんなことを知ってる?」 「○○についてはどんな風に考えている?」という質問は「君たちは既に知っている、考えている」と暗に認めている肯定を前提とした質問。
  • 質問に肯定という前提を含ませることはときに相手に対する強い承認を与えることになる。

肯定前提の質問か、否定前提の質問か、というところは、私もそういうことを意識してはいなかったので、新たな気付きをもらえた。

相手への敬意や信頼を持って質問し、答えてくれたことに対して自分がどう理解したかを伝えながら会話を進めていくことが、本来のコーチングなりカウンセリングなりの対話の基本だと思う。単純に質問すればいい、肯定すればいい、という小手先のスキルレベルの問題ではないということを、こういった手法を学ぼうとする方にはご理解いただきたい。