アメリカの就職事情

JMMで配信された米ラトガース大学講師・冷泉氏のレポート「「雇用と名誉」from 911/USAレポート」より。
日本とは違うアメリカの学生の就職事情が書かれていた。(最新号リンクはこちら。ただし更新されると内容は変わりますのであしからずご了承下さい。)

日本の場合ですと、三年生のうちに「内定」が出て、その後は「内定者訓練」のような形で、雇用の保証のある代わりに時間的拘束や忠誠心の植え付けなどがされるのですが、アメリカのインターンの場合はその後に「正社員」として雇われる保証はありません。中にはインターンをする中で、採用権限のある上司に見込まれて卒業後にはフルタイムで雇用されるというケースもあり、学生にはそんな期待もあるのですが、実際はそんなケースは限られています。

では、学生達は漠然と「職場の雰囲気を知る」ためにインターンをやっているというのかというと、全くそうではありません。インターンの職歴を履歴書に書くことが将来のキャリアのために重要だからです。そのためには、「キャリア形成という一貫したストーリー」を履歴書に語らせるようにしなくてはありませんし、どちらかといえば名の通った会社で、主要な業務の近くにいたということが効果的のようです。

インターン経験を積み重ねて行って、四年生になると本格的な就職活動になります。
こちらでは「新卒」と「既卒」の差はあまりありません。入門編といえる「エントリーレベル」のフルタイム職というのは、現役の大学四年生だけでなく、昨年もしくは数年前に大学を卒業した人、既に就職していて転職を考えている人など、多くの層がそのポジションを奪いあう形になるのです。

驚いたのは、「こちらでは「新卒」と「既卒」の差はあまりありません。」という部分。このあたりはMBAホルダーも条件は変わらないようで、「ハーバード・ビジネススクールにて」というblogのエントリ「Hell Week」でこのように書かれている。

一方、アメリカで就職する学生は、HBSにいても安泰ではない。アメリカ人ですら、面接に全く呼ばれないという状況が平気で起きる。いくら採用人数が多いとは言え、900人のHBSの学生+そのほかのトップスクールの学生とまともにやりあうことになるわけで、しかも来る前の経歴がとてつもない学生が大勢いる。HarvardやらStanfordやらYaleをTop 5%の成績で卒業して、その後有名コンサルティングファームを数年、あるいは有名投資銀行を数年、といった連中や、イラクで200人を率いた後、前線から戻ってきた軍隊出身者(ビジネス経験はないが、迫力が違う。社会のためにも積極的に雇おうという風潮も後押しする)、弁護士、医師を経てMBAといった連中が有名会社に殺到するわけだ。会社説明会や、卒業生を通じてアピールして、ようやく面接に呼んでもらう学生も多い。

日本でも、有名大学を出たからといって、全ての会社から内定が出たわけではないだろうから、状況は似たようなものだろう。ただ、一つ違うのは、どこの面接に呼ばれたかというのが話題になるくらい、書類での選別のプロセスも厳しい。有名PEファンドなど、一部の超人気、超高給職種は、学校から履歴書一覧を購入して個別に誘いをかけている。向こうからお誘いがなければ、チャンスがないということだ。アメリカ人も、かなり苦労している。

そしてその理由として、MBAコモディティ化を挙げている。

MBAというのが基本的にはコモディティであるという点が大きいかもしれない。一定の知識を保証するだけだし、みんな大体同じことをやるので、MBAそのものは、他の学生との差別化要因にならない。やりたい仕事にもよるので、一概には言えないが、本当にこちらで意味ある仕事をしたい、特に駐在以外の形で海外に住んで働くということが一番のプライオリティなのであれば、MBAだけでなく、理系のPh.Dを含めてもっと売れる学位は他にもあるかもしれないので、そちらを考えてみるのも手だろう。就職するためだけにPh.Dを取るのは明らかに過剰投資だし、そもそもそういう目的で取れるほどPh.Dは甘くないだろうが、MBA=ビジネスの学位=海外でも通用する国際ビジネスマンという単純な図式は、それなりに便利なものの、想像するほど通用しないと思っていたほうが安全だろう。

こういった違いが「就職」ひいては「働く」ということに対する考え方をにどう影響しているのか、非常に興味あるところだが、冷泉氏のレポートにはこのような記述もある。

就職活動の学生にしても、長時間勤務の管理職にしても、仕事をする中で少なくとも自分の名誉だけは尊重されている、そんな感覚が励みになっているのでしょう。

明日から始まる新人研修のせいか、自分自身どうも「就職活動」というキーワードに反応しやすくなっている気がする。