新卒社員はまず目の前の激流下りに専念し、基礎力をつけよう

朝日新聞東京版夕刊連載「Let's 仕事のかたち」の【キャリアスタートQ&A】記事より。執筆者はワークス研究所長・大久保幸夫さん。

まず仕事に必要な基礎力を蓄えて」(asahi.com:2006/03/15)

『初期のキャリアは「いかだ下り型」で行け!』とアドバイス。川下にたどりつくことが目標ではなく、目の前の激流をまずは全力でかいくぐりなさい、と。

 よく自分の適職がわからないと言って立ち止まってしまう人がいますが、本当に自分に向いている仕事がわかるのは、たくさんの仕事経験を積んだ後です。キャリアというのは不確かなもので、人との出会いや人事異動などによって、大きく変化します。そのような変化をむしろ歓迎して、能力を磨けばよいのです。ですから、もしも行きたい会社や、やりたい仕事がわからないときは、激流(のような会社)を選ぶことをお勧めします。

そしてその仕事をしながら身につけるべき基礎力としてこのようなものをあげている。(原記事図表を転記)

■対人能力
・親和力:他者との豊かな関係を築く
・協働力:目標に向けて、協力的に仕事を進める
・統率力:場を読み、組織を動かす

■対自己能力
・感情制御力:気持ちの揺れを制御する
・自信創出力:前向きな考え方や、やる気を維持する
・行動持続力:主体的に動き、よい行動を習慣づける

■対課題能力
・課題発見力:課題の所在を明らかにし、必要な情報分析を行う
・計画立案力:課題解決のための適切な計画を立てる
・実践力:実践行動をとる

出典は特に書いてなかったが、Works 73号の「どんな仕事においても、社会で働く上で必要とされる「基礎力」」という記事に同様の「基礎力」についての記述があった。このWorksの記事については別項目を起こすとして。

いかだ下りをしながら基礎力をたくわえたあとは、自分の専門を意識して「山登り型」に切り替えよ、とのこと。だいたい30代くらいを目安に。

実はこの山登りの山を決めるところで、他の道を捨てきれず立ち止まってしまう人が多いのです。そうすると30代半ばから50歳ごろまでの長期の「能力停滞期」に入ってしまいます。

というちょっとこわい話もしながら、でもそれはまだ先の話だからまずはしっかりいかだ下りで力をつけよ、と。

いかだ下りをしていると遠回りをしているような気分になりがちですが、山登りで山頂を極めた後に振り返ってみると、実はひとつとして無駄なキャリアはなかったと気づくはずです。この感覚が「天職」と呼ばれるものに出会ったときの感覚なのです。    

「天職」なのかどうかはわからないが、私自身今の仕事につくようになって初めて「今までやってきたことはまったく無駄になっていない」と実感した。それこそ中学・高校時代に部活動でやっていた演劇までもが役に立っているのには我ながら驚いた。(何に役に立っているかというと、キャリア研修をする時にしっかり声を出し続けること、身振り手振りを加えてわかりやすくファシリテートすること。)初期の女性営業としての地方支店での営業経験は最前線のベタベタの現場で働くことがどういうことなのかを知ることができ、そのあとの製品マーケティング部門での商品化やデモンストレーション、また生産計画や予実管理の経験は、製品の企画から保守までの一連のプロセスや「数字」のもつ意味を知ることができた。ただ、それは今だから言えることで、当時はそういう意味づけを持って働いていたわけではなく、少しでも自分にとってのその経験の意味づけができていたら、と正直少しもったいなく思う。

不安感から「すぐに優位に立つこと」「早くかっこいい仕事をすること」にとかく焦りを感じやすい新卒社員たちに、目の前の地味な仕事の中でつけていく地道な基礎力こそが大切だ、と、これからも折にふれて言い続けたい。もちろんそこには単なる精神論的説教にならないような事例が必要だろう。自分を振り返って用意しないと。

大久保さんの記事に戻ると、おおむね金井教授のキャリアドラフト/デザインの話とPlanned Happenstane、それにワークス研究所の研究成果をうまくブレンドしてわかりやすく伝えていると感じた。