「働く過剰―希望学の視点から若者の人材育成を語る―」

東大・玄田助教授の「ビジネス・レーバー・トレンド研究会」での報告レジュメ。(pdfファイル)
http://www.jil.go.jp/kokunai/bls/houkoku/documents/20051003.pdf
※1/5追記:
ブックマークしてくださった方が「玄田本の書評」とコメントしてくださっていますが、これは書評ではなく研究会の報告レジュメについての記事ですので、悪しからずご了承願います。

                                                • -

昨年9月12日にGCDFのセミナーで聞いた内容にかなり近い。研究会が10月3日実施と時期的にかなり接近していたためと思われる。
要約すると

  • 昨今の学生は部活動やサークルに入らずに勉強する。資格が取れる予備校や専門学校に必死に通う。就職活動が3年生から本格化することを知っているので、卒業に必要な単位を2年生のうちに取ってしまう学生もいる。
  • 社会で通用する人材になるように精一杯努力してきたのに就職が決まらない。そこからもしかしたら自分は社会の中で必要とされていない人間なのではないかと感じる学生も出てきている。
  • ニートはみんなどちらかというとものすごく生真面目に「社会で生きるとは何か。働くとは何か」を考え込んで、勝手に自分で結論を出している。
  • 企業は「即戦力」なんか求めていない。「化けそうな奴」がほしい。
  • 人材ニーズ調査で中小企業をインタビューした時、たくましく成長している企業に見えた共通項は「風通しのよい職場」と「一人前にする」。トップの意識が若手にも共有されていることと、一生懸命育てていくと社長が明言していること。
  • 玄田講演では定番の、吉本興業の(元フジテレビプロデューサー)横澤さんの、新人教育挨拶の「壁の前でうろうろしていろ」エピソード。
  • 働くとは、理解不能、意味不明、理不尽、論理矛盾、そんなことばかり。その中で「自分はちゃんと筋道が通って意味がわからないと働けない」と言ってると働けなくなる。
  • 学生の言う「求められているコミュニケーション能力」とは、ロジカルシンキングでパワーポイントでプレゼンしてコンペに勝って、しかも英語でプレゼンできること、らしい。そんなこと毎日やってる会社員がどこにいるのか。
  • 可能性が見えるにはWeak Tiesが重要

ここまではどこかで一度は聞いたことのある話。本レポートで初めて見たのはこのあと。東京大学の苅谷教授から寄せられた「仕事のなかの曖昧な不安」への書評の中でこう指摘していたとのこと。

Weak Tiesはだれしもが持てるものでもない。社会の中に隠れている階層問題と非常に強いリンクがあって、やはりある程度恵まれた階層の人でないとWeak Tiesは作れない。

またある学生からこのような指摘を受けていたとも言っている。

(Weak Tiesを)自分でもつくろうと努力してきた。けれども、あるときわかった。Weak Tiesをつくるためにはお金と時間が要るんですよね。

この点は実は私もうすうす感じていたことだった。と言っても私の場合は「階層」による差というよりは、学生の言う「お金と時間が要る」の方がより実感を持っているのだが。毎日9時10時まで残業してタスクに追いまくられた生活をしていて、たまの休みはたまった家事を片づけなければならない、また家族を遊びに連れて行くことを要求される会社員たちが一体どうやって「たまにしか会わないくらいだけど信頼関係でつながっている人間関係」が作れるというのか、という悲鳴が聞こえてきそうだ。
玄田氏はこの点については「甚だ疑問に思っています」と述べるにとどまっているが、「Weak Tiesが重要」と主張するからには何らかの解決案が求められるだろう。コストをかけずに時間をうまく使ってネットワークを広げていくという観点では、インターネットの活用などが考えられると思うが。
報告のタイトルは近著から取ったものと思われるので、最後にリンクを。

働く過剰 大人のための若者読本 日本の〈現代〉12

働く過剰 大人のための若者読本 日本の〈現代〉12