東大MOOC「インタラクティブ・ティーチング」week5「もっと使えるシラバスを書こう」メモ

インタラクティブティーチング」week5は年内に視聴を終えてあったのですがまとめきれず、記事にするのが年明けになりました。(でももう既にweek6が始まっていて、こちらのテスト〆切は1/11です。何だか自転車操業的な…)

week5のテーマは「もっと使えるシラバスを書こう」です。

以下、まず気になったポイントと感想を。

シラバスは自分が学部生だったころはきちんと意識したことがなかった(「講座概要」程度のものしかなかったような記憶)ので、今はここまで重要なツールになっているのかという点にまず驚いた。

シラバスの項目などは企業研修とも共通するものが多く、目的と目標の違いやそこに使われる用語、構造の可視化など実務で参考に出来る部分が多かった。

●「評価についての留意事項(目標を評価する、評価対象は測定可能なものとする等)」は、企業研修では受講生に対する評価という意味合いよりも講座そのものを評価するのに当たって事前に決めておくべき項目を設定するのに役立ちそうだと感じた。

●スキル編の学生の「リアクションを生み出す」ために「目の動き→体の動き→手を挙げる→声を出させる」といった手順をふむ、というのは自分自身実際にやっており、なるほど理に適ったやり方だったのだと再確認できた。(「逆回し演技」は少々くどい感じがしたが)

●ストーリー編のお二人の先生の話は(これまでのストーリー編もそうだったが)「大学教育とは何か」「大学とはどういう場なのか、どういう場であるべきなのか」というそれぞれの先生の哲学が伝わる、非常に興味深い内容だった。またお二人とも授業の始めで「この授業はこういう考え方でやる」というグラウンドルールをきっちり明示し、学生に「学習者が自らの学びに対して責任を持つ」「そのために教員は全面的に支援する」ということを伝えていることも重要であると感じた。

●ゴチェフスキ先生の「知識はGoogleで調べたらわかる。音楽史でなぜこの作曲家が重要なのか、出てくる出てこないということをどういう基準で誰が決めたか、そういうことを考えるのが大学」という言葉が特に印象的だった。また1年をかけて実施する他大学の学生を交えた授業もいかにも「大学ならでは」の知的価値にあふれたものになっていると感じた。

●山邉先生の言葉で「自分がよかれと思うことを学習者に押しつけるのでなく、目の前の学習者がそれぞれの文脈でどういった学びを必要としているかを丁寧に読み取って、そこを支援していくという意味でのプロフェッショナリズムを発揮するといい」というのは、学校教育のみならず企業研修でも同じことが言えると思った。

●次回Week6は「学びを促す評価」です。

以下動画を見ながら取ったメモです。(主に羅列で長いです。すみません)

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5-1. イントロ

5-2. ナレッジ(1)もっとある!シラバスの役割

大阪大学教育学習支援センター准教授 佐藤浩章先生
http://www.tlsc.osaka-u.ac.jp/org-ja-ja/sato

目的
学生の学習を促進するためにもっと使えるシラバスの書き方を学習する

到達目標
1)シラバスの定義と多様な役割を説明できる
2)適切に目的と目標を設定できる
3)効果的にスケジュールをデザインできる
4)グラフィック・シラバスの意義と活用方法を説明できる
5)適切に評価方法を書ける

1.シラバスとは何か?

定義
各授業科目の詳細な授業計画(中略)
学生が各授業科目の準備学習等を進めるための基本となるもの。また、学生が講義の履修を決める際の資料になるとともに、教員相互の授業内容の調整、学生による授業評価等にも使われる。
(文部科学省答申用語集, 2008, p.4)

アメリカでは、教員と学生の契約書とされている例もある。
授業内容の概要を総覧する資料(いわゆるコース・カタログ)とは異なり、科目の到達目標や学生の学修内容、準備学修の内容、成績評価の方法・基準の明示が求められる。

役割
(主として学生)
1. 授業選択ガイド
2. 契約書
3. 学習効果を高める教材
4. 教員と学生の関係作りのツール
5. 授業の雰囲気を伝える/知る

(主として教員)
6. 授業全体をデザインする
7. カリキュラム全体に一貫性を持たせる
8. 教育業績のエビデンス

※2 4 5 は学生・教員共通

シラバスは「0回目の授業」
ぜひ取ってみたいな、と思わせるようなシラバス

2.シラバスの項目例

○授業題目 キーワード ○目的 ○到達目標 授業概要 学習方法 ○スケジュール 時間外学習に関わる情報 受講条件 ○成績評価法 受講のルール 教科書 参考書 教科書、参考書に関する補足情報 事前学習に関する情報 オフィスアワー 連絡先 参照ホームページ

シラバスの役割
選択ガイド以外の多様な役割

効果的な作成と活用により学生の学習をもっと促進することが出来る

5-3. ナレッジ(2)目的と目標の設定

適切に目的と目標を設定できる

1.目的とは
この授業の存在意義
学生からの「なぜこれを学ばなければならないのか?」という問いに対する答え

2.目的の書き方

・学生を主語にする
・「〜するために」を入れると良い
・総括的な動詞を用いて表現する

「授業の目的」に使用する動詞の例

修得する 身につける 理解する 創造する 位置付ける 価値を認める 知る 認識する など

3.目標とは
・授業終了後に学生に出来るようになっていてほしい能力(Goal, Learning Outcomes)
・目的を具体化したもの 対応関係
・観察可能な行動(動詞)で記述
・成績評価と一致させる
・具体的な記述で学生の自学自習を促す

4.目標の書き方
・学生を主語にする
・ひとつの文章にひとつの目標 箇条書き
・評価基準を明示
・現実的かつチャレンジングなレベルに設定→ジャンプすれば届く距離
・知識(認知的領域) スキル(精神的領域) 態度(情動的領域)に分けて書く

認知的領域(Cognitive Domain)
精神的領域(Psychomotor Domain)
情動的領域(Affective Domain)

使う動詞(認知的領域)
列記(挙)する 延べる 推論する 記述する 説明する 分類する 比較する 対比する 類別する 弁(識)別する 関係付ける 予測する 具体的に述べる 結論する 同(特)定する 公式化する 一般化する 指摘する 選択する 使用する 応用する 適用する など
(日本医学教育学会,2007)

使う動詞(精神的領域)
測定する 実施する 模倣する 熟練する 工夫する 触れる 行う 調べる 操作する 挿入する 準備する 手術する 視診する 聴診する 触診する 打診する など
(日本医学教育学会,2007)

使う動詞(情動的領域)
協調する 配慮する 参加する コミュニケートする 討議する 尋ねる 示す 見せる 助ける 感じる 行う 相談する 寄与する 反応する 応える など

まとめ
目的とは?→授業の存在意義
目標とは?→授業終了後に学生にできるようになってほしい能力

※参考:ブルームのタキソノミー(分類学
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/2Block/04/04-1_text.html

教育の目標とする領域を「あたま、こころ、からだ」 の3領域(認知・情意・精神運動領域と呼ぶ。KSA (Knowledge, Skill, Attitude)と略されて用いられる場合もある)


5-4. ナレッジ(3)授業スケジュールのデザイン

1.授業概要・スケジュールの書き方
<授業概要>
授業で扱う内容を大まかに記述する

<スケジュール>
・日付、各回の内容の概要、課題などの情報を示す
・授業時間外の学習/課題がある場合は明記(学習の自己管理能力を育成する)
・表を使うと見やすい
・複数回をまとめて区切るユニット制は有効

2.スケジュールに関するFAQ
・毎回計画が立てられない場合はどうするの?
→可能な限り具体的に記述
ex.第2-5回 学生のニーズに合ったテーマでグループディスカッション

シラバスどおりの授業が良い授業なの?
→原則変更はしない(シラバスは契約書でもある)
変更時は通知を徹底/差替え版を配布
・スケジュールをデザインするにあたって最も重要なことは?
→目的・目標が達成され、学生の学びが促されるかどうか

まとめ
良いスケジュールとは?
・各回の内容が具体的に書かれている
・内容が体系的である
・他科目と調整されている
・学生の現状を把握している
・学生の効果的学習を促進している

5-5. ナレッジ(4)授業の構造の可視化

1.授業の構造の可視化の意義

初学者と熟達者の知識構造

初学者→知識少ない バラバラ
熟達者→知識多い 構造化

知識はあってもどれが適用されるのかなかなかわかってくれない→初学者が陥る問題

2.テキスト・シラバスの限界

大学教員(熟達者) (テキスト) 学生(初学者)

構造化された知 → 脱構造化された知 → 構造化されない知

構造化された知をテキスト・シラバスは伝えにくい

大学教員(熟達者) (グラフィック・シラバス) 学生(初学者)

構造化された知 → 構造化された知 → 構造化された知

3.グラフィック・シラバスとは?

・授業における重要概念間の系統性・関係性を図示化したフローチャートダイヤグラム(Nilson, 2007:06)
・コンセプト・マップ(概念地図法)と呼ばれている学習指導法(Navak, 1996)をシラバスに応用したもの。知の構造を分かりやすく示すことができる。
・知識の組織化・構造化に有効

学習者の注意喚起、概念理解促進、記憶の定着のために有効

5.グラフィック・シラバスの活用方法

・初回ならびに毎回の授業で提示する(コースの俯瞰)
・授業の単元が進むごとに要素を付け足していき、最終回で全体像を完成させる
・授業の中間段階、あるいは最終段階で学生に作成させる(学習成果の確認)
・(教員にとって)コースデザインのツール

5-6. ナレッジ(5)評価方法の書き方

1.なぜ評価情報を書くのか?

「第二十五条の二  大学は、学生に対して、授業の方法及び内容並びに一年間の授業の計画をあらかじめ明示するものとする。
2  大学は、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たつては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがつて適切に行うものとする。 」(大学設置基準)

「学習に最も強い影響を与えるのは評価方法であろう。試験の質問項目・レポートの課題に何を選ぶのかということが、学生の学習に強い影響を与える」
(Entwistle, 1996, p.97)

2.評価に関わる情報の書き方

明記すること
・成績を評価する方法
・成績評価の配分割合
・評価の採点基準
・テストやレポートの内容、提出期限

具体的に書けば書くほど学生はやるべきことが明確になる

評価についての留意事項
・目標を評価する(原則全て)
・評価対象は測定可能なものとする
・具体的に書く(評価情報が学習を制御する)
・目標に対応した方法を選択する

3.目標に対応した評価方法

<認知的領域(知識)>
知識・理解→ 客観試験、論述試験
思考・判断→ 口頭試験、論文、レポート

<精神運動的領域(スキル)>
運動技能・操作技能→ 定地試験、シミュレーション、観察試験
コミュニケーション→ 口頭試験、観察試験、相互評価
アカデミックスキル→ 論文、レポート

<情動的領域(態度)>
態度→ 実地試験、シミュレーション、観察評価
意欲・関心→ レポート、ポートフォリオ、相互評価、心理テスト

4.評価情報の例

出席点は評価の対象にしないところが増えている
受講態度 対応する目標ない

5-7. ナレッジ(6)ディスカッション:目標を設定してみよう

「ダメな目標」を改善

進め方:目標の書き直し
1)この目標の問題点をできるだけ書き出しましょう(1分)
2)グループ内でシェアしましょう。白紙の上部に問題点を張り付け、同じものを重ねます(3分)
3)グループ内で目標の改善案について議論し、改善された目標を白紙の下部に書きます(10分)
4)グループごとに発表(1チーム1分)

「理解する」は目標ではNGワード

5-8. 振り返り
5-9. スキル:交流編2:リアクションを生み出すために

授業の導入部で学生のリアクションを引き出すためのウォームアップをしていくことが重要

しぐさ
目線を動かすようなジェスチャー

動き
学生の意識を誘導する動き

挙手
段階的に聞いていく
教員が手を挙げて動きを誘発する

声を出させる
「せーの」
ウォーミングアップになる

目の動き→体の動き→手を挙げる→声を出させる

5-10. ストーリー(1)大学教育と大学生の日独比較

東京大学総合文化研究科超域文化科学専攻
ゴチェフスキ ヘルマン(ゴチェフスキ ヘルマン) GOTTSCHEWSKI Hermann [1963] / 准教授 Associate Professor
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/research/faculty/list/ics/f002246.html

専門:音楽学

ドイツのアシスタント ゼミはできる
講義は教授資格を持った人
ただし講義は単位にはならない
聞きたい人しか来ない
自分の最初の講義は一人しか残らなかった
学生は成績がつかないけど先生は成績がつく
25年間同じ授業をする先生もいた
日本の大学で一番びっくりしたのが、講義をやって試験をやらないといけないこと

<ドイツと比べて>
学生が若い
ドイツは高校卒業するのが19〜20才 実際大学に入るのは22〜23才

日本では何か学べるということを期待している
学部生に教えるときまず最初に大学は学ぶところではないということを言う
大学では学び方を勉強する

音楽史が存在してそれを学ぶことができるというのは間違った考え方
私たち学者は音楽史を作っている
知識はGoogleで調べたらわかる
音楽史でなぜこの作曲家が重要なのか 出てくる出てこない どういう基準で誰が決めたか そういうことを考えるのが大学

<アジアの大学と東大の学生が交流しながらやる授業>
韓国 ソウル大学 延世大学
台湾 国立大学

テーマ:リスニング 歴史的 文化的 どのように変わってくるか

準備1年
テーマに対してアブストラクトを出してもらう→優秀なアブストラクトのみ受け入れる
メーリングリストを作る→自己紹介
アブストラクトをシェア 書き直す
近いテーマでグループ (日韓台混ぜる)
ゼミが始まる1カ月前にフルペーパーを英語で出してもらう
全ての他の16人の学生が書いたペーパーを読む
質問する義務 自分のグループに入ってる人には2〜3個用意
東京でグループ内ディスカッション 一人45分

学生の感想「また参加したい」 4回中4回全部参加しているリピーターがいる

<メッセージ>
自分が本当に興味があることをやって下さい
自分が本当に興味を持たないと人も興味を持たない
そういうものがなければ、大学の教員になるという希望が間違っているかもしれない


5-11. ストーリー(2)学生とともに創る授業

教養学部 山邉 昭則

専門→教育学(科学史から)

<学部の授業>
アカデミックスキルズ 初年次教育
学期ごとにテーマを変えてアクティブ・ラーニング

ex.国際問題について
問題発掘 所在の精査 解決法
problem based learning(問題解決を最終的なゴールとする)

研究倫理 サイエンスコミュニケーション
project based learning
社会発信をしてインタラクティブに社会の方々の声も引き取ることができるような出題

Q.グループ学習中先生は何を?
できるだけ観察(介入は2割以下がいいという研究結果もある)

プロとして適切に介入すべきところは介入

学期の最初に大きな枠組みは何度か繰り返し示して、ここからはみ出るような議論はここではしません、とあらかじめ明示

枠組みの中であればどういうトピック、テーマ設定でもいい
ある程度の自由度 各班のバランス
週ごとに冒頭に前回までの取り組みを共有

<学部生に教えるコツ>
学習者中心の教育を徹底的に意識する
学習者が自らの学びに対して責任を持つということを口頭で言う
最大限サポートする

ダイバーシティ
科類、学年、男女をバランス良く配分

別の価値観の人たちと出会って学び合うことで新しい自分の価値観を作ることができた

コンフリクトを含めて学びであることをきちんと学習者に伝える

こういうやり方は10年ほど前から考えてた
イギリスの医療者の教育「インタープロフェッショナルエデュケーション」
従来は縦割り チーム医療とのギャップ
それぞれの学科の子が学びの初期段階で同じテーブルでひとつの症例に対して専門性を活かした意見を言い合って問題解決

初期段階で自分と学術的な思考が異なる人たちといかに連携して問題解決に当たるかということのベースレジデンスを作る上で重要

<メッセージ>
いろんなつまづきがある
そういった時には、自分自身が学習者中心の授業を、教育を、果たしてできているのかということを自らに問うことで明らかになる課題、発展的に開発すべき課題、つまづきの理由などが明らかになる

自分がよかれと思うことを学習者に押しつけるのでなく、目の前の学習者がそれぞれの文脈でどういった学びを必要としているかを丁寧に読み取って、そこを支援していくという意味でのプロフェッショナリズムを発揮するといいのではないか

教育者も学習者によって成長させていただいている

※参考
新しい時代のリベラルアーツ(東京大学科学技術インタープリター養成プログラム:連載エッセイ『インタープリターズ・バイブル』)

大学教員のための授業方法とデザイン (高等教育シリーズ)

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東大駒場連続講義 知の遠近法 (講談社選書メチエ)

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