東大MOOC「インタラクティブ・ティーチング」week4「90分の授業をデザインしよう」メモ
「インタラクティブ・ティーチング」ようやくweek4を終えてまとめることができました。(でももう既にweek5が始まっています。年内最後のテスト〆切は12/28です…)
week4のテーマは「90分の授業をデザインしよう」です。
以下、まず気になったポイントと感想を。
●今回の「クラスデザイン」の内容については、ADDIEモデルを始めとしてなじみのある内容が多く、おさらいと理論的背景の確認が主となった。
●ADDIEモデルにしろガニエの9教授事象にしろ、基本を押さえつつセッションごとに「このセッションは何のためにやっているのか」をきちんと意識した上でデザインし、運営することが大事だと思った。
●「クラスデザインシート」も弊社の場合はIDシートが既に利用されており、企業研修に最適化されているためこちらを活用して行ければいいと思う。
●スキルセッションは「学生を巻き込んで授業をしやすい空間 リラックスした空間をなるべく早く作る」ということをどう実施していくかというものだった。このあたり、講師経験者はいろんな自分なりのノウハウを持っていると思われ、それをお互いもっと共有してもいいかもしれないと思った。
●ストーリーセッションのお二人(斎藤先生、苅谷先生)はどちらもとても興味深いインタビューだった。
●斎藤先生が授業で使われたという「新渡戸稲造の「武士道」と武士道に関連する映像」「鈴木大拙の英文と鈴木大拙が実際に英語で説明してる映像」はどういう風に相互作用を持たせたデザインになっているか、興味深く感じたので、実際のものを見てみたいと思った。
●斎藤先生の英語教育に関するコメントで
・経済界の「グローバルな人材を作れ」という要請に対しては、現場では基礎からしっかり教えていかなければいけない
・単純な文法でもいいから言いたいことを言っていくということでは非常にレベルの低いことしか言えない
・だからきちっと文法を教える必要がある
・文法を気にしすぎるから話せないのではなく、気にならなくなるまで徹底的にやってないから話せない
といったあたりは、私自身英文科出身者として非常に納得のいくものであった。
流暢なスピーキングだけに重きを置くだけでは不十分で、高い知的レベルのやりとりをするには「とにかく話せばいい」レベルの教育とは違うのだということを個人的に常々感じていたのでとても腹落ちする内容だった。
●苅谷先生の言われていた「少なくとも目の前にいる学生に対して、教師の側が能動的に働きかける特権を持っている」という言葉、そして「とば口・入り口まではとにかく連れてきてあげる為には教師は工夫が必要」という言葉がとても印象的だった。
●苅谷先生は欧州と日本の「大学」の違いについては下記インタビューでも語られている。こちらを併せて読むと、中で話されていたチュートリアルについて背景含めてよりイメージしやすくなると思う。
大学はなんのためにあるのか/オックスフォード大・苅谷剛彦教授インタビュー(朝日新聞 GLOBE)
●苅谷先生が「大学にしかできないこと」として、「ある概念がどう現実と対応しているか いろんな現実の経験則の中からいかにしてその中から規則性・パターンを見出すか」「抽象化と具象化のいったりきたり」ということを挙げられていて、大学教員を「いかに知的な能力の形成につなげるか伝えられるポジション」と定義されていたのも非常に印象的だった。この「抽象化と具象化のいったりきたり」は大学の中だけで役立つものではなく、むしろ私たちが企業活動の中でより質の高い仕事をしていくためにも大事な知的能力であり、「抽象化と具象化のいったりきたり」をきちんと叩き込まれているのならば大学で学んだことは社会では役立たないなんてことは決してないのだと思う。
(このあたりについて中原先生がご自身のブログ記事で、企業系の話題にともすると蔓延する「経験至上主義」的論調、「現場原理主義的言説」について「そこで求められるのは「抽象化の知性」です」と指摘されていることにも全く同感である)
●私が苅谷先生を知ったのは2001年に出版された「階層化日本と教育危機」という書籍で、この中で先生は「不平等再生産」「意欲格差社会」というキーワードを使いセンセーションを巻き起こしました。ご興味ある方はまずはこちらの解説をお読みいただければ。
論争ウオッチング 苅谷剛彦著『階層化日本と教育危機』(2001年、有信堂高文社)(RIETI)
●次回Week5は「90分の授業をデザインしよう」です。
以下動画を見ながら取ったメモです。(主に羅列で長いです。すみません)
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4-1. イントロ
4-2. ナレッジ(1)クラスデザインの意義とADDIEモデル(1)
目的
学びを深める授業実施に向けてのデザインと意義と方法を理解する
到達目標
1) クラスデザインの意義を説明できる
2) ADDIEモデルを使いデザインの流れを説明できる
3) クラス構成の基本型をガニエの9教授事象を基礎として説明できる
4) デザインシートを使い授業をデザインできる
1.デザインの意義
・授業時間の効率的利用
・教授方法のの計画的利用
・授業改善を行いやすい
・知識・スキルの共有のしやすさ
2.ADDIEモデル
授業設計のためのモデルのひとつ
各要素
分析 Analysis → 設計 Design → 開発 Development → 実施 Implementation → 評価 Evaluation →分析に戻る
◎分析(Analysis)
・クラスデザインに必要な要素の特定
・目標の設定
要素の特定
・学習者の特定や前提知識
・教える内容
・教室環境
目標の設定
・そのクラスで扱う内容を網羅すること
・達成できたかどうかを確認できること
◎設計(Design)
教授内容の設計
設計の内容
・教授方法の質と量
・教授の方法
・ワーク/課題
・構成
・タイムライン
設計方法として
・ガニエの9教授事象
・クラスデザインシート
4-3. ナレッジ(2)クラスデザインの意義とADDIEモデル(2)
◎開発(Development)
デザインにしたがい、実際に使用する教材などを準備する、作成する
提示資料
・プレゼンテーションソフト
・板書用ノート
配布物
参考資料、模型、実物
◎実施(Implementation)
実際の授業の実施
留意点
・デリバリー
・学生の理解度の逐次確認
・柔軟な方針変更
◎評価(Evaluation)
・一連の分析・デザイン・開発・実施の検証
各段階における逐次評価
次につなげる評価
・評価の方法(評価者)
自己評価
学生評価
第三者評価
CLOSE THE LOOP
4-4. ナレッジ(3)クラス構成の基本型
・クラス構成の基本型
クラス構成の基本形をガニエの9教授事象を使って説明できる
導入 つかみ、復習、概観 5〜20分
展開 本論1 本論2 ワーク など 50〜80分
まとめ 総括、発展、課題 5〜20分
◎9教授事象とは
・「授業設計理論の父」学習心理学者ガニエが提案
・教員が学習者にできる働きかけとしての9つの観点
1 学習者の注意を喚起する
2 学習目標を知らせる
3 前提条件を確認する
4 新しい事項を提示する
5 学習の指針を与える
6 練習の機会を設ける
7 フィードバックをする
8 学習の成果を評価する
9 学習の保持と転移を促す
◎導入:新しい学習への準備 1〜3
好奇心、関心を呼ぶ
集中力、意欲、期待感を高める
既知の知識、技能と結びつける
◎展開:学習 4〜7
既有事項との関連、類似性に留意しつつ
新規事項の意味づけ、他事項との関連性を意識しつつ
事項の定着
取り出し方と応用
完成、定着へのサポート
◎まとめ:確認と定着・応用 8〜9
新しい事項が定着したかどうかの確認
発展の機会の意識
他の学習への応用
※「ガニエの9教授事象」参考リンク
https://www.isrf.jp/home/column/ando/63_20140818.asp
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/ksuzuki/resume/books/1995rtv/rtv02.html
※成長するティップス先生 第4章日々の授業を組み立てる
http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/tips/basics/design/index.html
4-5. ナレッジ(4)デザインシートの利用
(1)クラスデザインシート作成の意義
・授業計画の構造的可視化
・授業時間の効率的利用
・教授方法の計画的活用
・授業改善を行いやすい
・知識・スキルの共有のしやすさ
(2)シートの構成
コンテンツがリズム良く配置されていく(ガニエの9教授事象を参考に)
◎項目
名前
基本情報
学年
科目名
受講者数
教室
このクラスのタイトル(トピック,テーマ)
第 回
このクラスの目的
このクラスの達成目標
対応する評価方法
スケジュール
経過時間 所要時間 構成 内容 詳細 方法 学生の活動 使用資料
その他
4-6. ナレッジ(5)ディスカッション:クラス・デザイン演習
課題:クラスのデザイン
WEEK2 で学んだジグソー法について,授業をデザインすることを考えます。以下の
・目的・目標に合った授業をデザインしてみましょう。
・目的 ジグソー法を理解し利用できる
・目標 ジグソー法の特徴を説明できる ジグソー法を利用できる
あなたなら「導入」「展開」「まとめ」にどのような内容を盛り込みますか。以下の枠の中にそれぞれ書き込んでみましょう。必要に応じてガニエの9教授事象を参照してみましょう。
さらには、発展課題として「授業デザインシート」を使ってジグソー法についての授業デザインを完成させてみましょう
手続き:
・各自「導入」「展開」「まとめ」のアイデアを出す
・グループでアイデアを交換し、ブラッシュアップ
・各事項ごとに全体でシェア
※つめこみがちになるけど、どこを削いでいくのか?というプロセスをやってもらうといい
4-7. 振り返り
4-8. スキル:交流編1:まずは自分の緊張をほぐす
【寸劇によるデモンストレーション&ディスカッション】
前にいて反応がいい学生
・あいさつでもう目が合ってる
・うなずきが多い
→大切にする
リーダータイプ・ムードメイカー
・周りの人と感想などをお話ししている
→自分の意見を延べてもらう
ちょっとアンチな空気の人
→最初のうちに声をかける
なるべく答えやすいクイズにして答を引き出してあげる
場に参加しやすい空気を作る
こうすることで全員が参加しなければ講座は成立しない、というルール作り
学生を巻き込んで授業をしやすい空間 リラックスした空間をなるべく早く作る
4-9. ストーリー(1) 目で見て、耳で聞く英語教育
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻 斎藤 兆史 / Saito Yoshifumi (教授)
http://gamp.c.u-tokyo.ac.jp/staff/p/saito.html
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/gs/c9/staff
元々英語文体論
文学のテキストをきちっと言語学的に読む
→英語教育に応用
教養課程 英語Ⅰ、英語Ⅱ
英語Ⅰ→共通の教科 大人数
英語Ⅱ→comprehension
読み教材と視聴覚教材を一緒に使って英語を教える
ex.
新渡戸稲造の「武士道」と武士道に関連する映像
鈴木大拙の英文と鈴木大拙が実際に英語で説明してる映像
30分程度
5〜10分 30分たって 5〜10分
視聴覚教材の役割
・聞き取りの教材
・字幕で自分の理解度の確認
◎最近の中高の英語教育について
理念と現実の乖離
コミュニティヴな英語運用能力が重要とされてきている
でも現場が変わらない 先生方は混乱
経済界 グローバルな人材を作れ
現場で何をするか→基礎からしっかり教えていかなければいけない
社会の要請と現場で出来ることとの間の距離は非常に大きい
単純な文法でもいいから言いたいことを言っていく
→非常にレベルの低いことしか言えない
だからきちっと文法を教える必要がある
文法を気にしすぎるから話せないのではなく、気にならなくなるまで徹底的にやってないから話せない
日本語と英語はすごく言語的に距離があるためになかなか習得が難しい
大学教育でも昔のような文法・読解というのは敬遠される傾向
一律にとにかく英語で教えなさいというのが指導要領に盛り込まれてしまった
→それはしばりすぎ
◎メッセージ
最近特に授業のやり方や教授法に重点が置かれる
ややもすると教授する内容に対する理解がタブー視され、英語の先生の英語力は問われない傾向がある
英語の先生になるという人はまずは英語を勉強してください
学習者の手本になるような英語を話す訓練をしてみてください
4-10. ストーリー(2) 教え方・学び方の日米英比較
オックスフォード大学 苅谷剛彦教授
http://www.sant.ox.ac.uk/people/kariya.html
◎Oxford大での教え方
チュートリアルという個別の指導法
基本一対一 毎週必ずこれだけのものを読みなさい
10枚くらいのエッセー 議論を書き事前に先生に渡しておいてフェイストゥフェイスで議論
だいたい1時間くらい
Oxfordのフルタイム学生は1日8時間 週5日勉強するのが当たり前
お互いがいかにクリエイティブにあるいは知識に対して新しい価値をどう付け加えたかということについてのディスカッション
いかにしてその知識を使ってある議論を組み立てるか、ということをやる
すごく抽象的な高度なレベルの問題が出される
いかにユニークでオリジナルに、読んだものを使いながらしかもより美しい文章で書かなきゃいけない
◎アメリカと日本の教育の違い
日本人のコミュニケーションスタイルとアメリカ型のコミュニケーションスタイルが違う
教える場面 学ぶ場面に表れている
アメリカ型をなかなか真似しようとしてもできない
◎授業の工夫 なぜそのようなやり方で?
とば口・入り口まではとにかく連れてきてあげる為には教師は工夫が必要
◎大学で教える為のスキルはどのように教えられるか
ボランティアで院生向けに教えるスキルを伝えるためのワークショップをやっていた
大人数講義の注意点、シラバスの書き方、成績評価等
実際にやってる人の経験談をもとにしてディスカッション
TAとお昼を食べながら大学教えるってのはこういうことなんだと語ってた
自分のやり方を見せると同時に楽屋話・種明かしをすることで院生たちの教える事に対する意識とノウハウを伝えようとした
◎メッセージ
少なくとも目の前にいる学生に対して、教師の側が能動的に働きかける特権を持っている
大学にしかできないこと
ある概念がどう現実と対応しているか いろんな現実の経験則の中からいかにしてその中から規則性・パターンを見出すか
帰納と演繹という頭の働かせ方
抽象化と具象化のいったりきたり
いかに知的な能力の形成につなげるか伝えられるポジション
※インタビューの中で出てきた「衝撃的な授業内容」について、中原先生がブログで書かれていた記事がありますのでご参考に引用します。
抽象化と具象化のトレーニング!? : 大学にしかできないことは何か? 苅谷剛彦先生との対談をとおして
苅谷先生の授業で、僕が、もう「脳に刻み込まれるほどのレベル」で、20年たっても忘れられない授業の一コマがあります。
それは、ピエール・ブルデューの「再生産」の中の「象徴的暴力」の概念を教える授業です。人文社会科学の研究において、このあまりにも有名な「再生産」の第一テーゼ、すなわち「教育の暴力性」を教えるために、苅谷先生は何をなさったか。それは、下記のあまりにも難解な「再生産」の第一テーゼを、英語で、しかも、自ら突然教室にあらわれ、自ら「苅谷剛彦教授」であると名乗ることなく、これを黒板に書き付けることでした。
「およそ象徴的暴力を行使する力、すなわちさまざまな意味を押しつけ、しかも自らの力の根底にある力関係をおおい隠すことで、それらの意味を正統であるとして押しつけるにいたる力は、そうした力関係のうえに、それ固有の力、すなわち固有に象徴的な力を付けくわえる。」
(ブルデュー・パスロン「再生産」)誰ともしらぬ人(単なるオッサンかもしれぬ)が、勝手に教壇にあらわれ、この難解なテーゼを、しかも英語で、黒板に書き付けたとき、100人以上いる東大の受講生のあいだに起こった現象とは何であったか? それこそが、「象徴的暴力」の概念の意味を考え得るきっかけなのです。
そこにあわられた現象は・・・・何ら「根拠なきテーゼ」ーしかも意味のわからない難解なものーを、自らのノートに静かに書き留める、という東大生の集団的行為でした。そして、この一斉に発露した根拠なき集団的行為こそが、「象徴的行為」を考え得る最初のきっかけになったことなのです。苅谷先生は問いました。
君らさ、僕のこと、誰だと思った?
何も言ってないよね? 僕、教壇に立っていただけれども。
僕、教師だとも、ひと言も言ってないよね?
誰も、名乗っていないよね?でも、君ら、ノートに書いたよね?
なぜ、君らは、誰かわからぬ人が、勝手に英語で板書した、意味のわからないテーゼを、自分のノートに書こうと思ったの?
なんで?
そこにはどんな力が蠢いてた???
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