漏洩理由はどっち?「誤解を解きたい」vs「研究成果を知ってほしい」

どっちにしても結果はアウトなのだが、精神鑑定医の調書漏洩の件、新聞報道が割れている。
「長男は殺人者」の誤解解きたかった 鑑定医が動機(asahi.com:2007/10/18)

動機について「長男が殺人者という世間の誤解を解きたかった。長男のためにやった」と話しているという。金品授受は一切否定している。
(中略)
崎浜医師は鑑定で、長男は自分の興味・関心に執着する広汎性発達障害であり、犯行時は幼少時から暴力を受けていた父親から逃げることに病的に集中した結果、非行に及んだ「不幸な事件」と結論づけていた。

 草薙氏の依頼に応じた理由を「長男に明確な殺意があったわけではないことを社会に訴え、広汎性発達障害への世間の誤解もなくしたかった」と話しているという。

「研究知ってほしかった」と逮捕の精神科医…少年調書流出(YOMIURI ONLINE:2007/10/18)

 奈良県田原本町の医師(48)方の放火殺人事件を巡り、長男(17)の供述調書などを引用した単行本が出版された秘密漏示事件で、著者のフリージャーナリストの草薙厚子さん(43)に調書などを漏えいした容疑で逮捕された精神科医、崎浜盛三容疑者(49)が、奈良地検の調べに対し、「精神医学と犯罪との関連性についての研究成果を、広く知ってもらいたかった」という趣旨の供述をしていることがわかった。
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 地検は崎浜容疑者が、供述調書などの内容が出版されることを予想したうえで、草薙さんに見せた可能性があると判断している模様だ。

産経新聞は朝日的立場の報道。
「少年犯罪を押さえ込む環境を…」 崎浜容疑者msn産経ニュース:2007/10/15)

 周囲には、「少年の心理を多くの人に知ってもらい、鑑定医や研究者の立場から、少年犯罪を抑止できる環境づくりを目指したい」と語っていたという。

 崎浜容疑者を知る精神科医は「犯罪を起こした少年の精神鑑定に強い関心を寄せて研究に打ち込んでおり、この道の権威だった」。そのうえで、「事件を引き起こした少年の心理状態を明らかにして、犯罪の理由を突き止め、理解を広げることで少年犯罪の防止につなげたいと願っていた。今回の一件はその思いが強すぎて逸脱してしまったではないか」と同情を隠さない。

朝日・産経的理由だとしても「それとこれとは別でしょう」読売的理由だとしたら「売名行為か、ますます許せん」となるような気がするので、いずれにしても救われない話だが。

よく読むと朝日は弁護人、読売は地検側の情報で書いている。ここで早くも鍔迫り合いか。

朝日の記事で「また発達障害がこんなところで名前が出てきて」と形見の狭い思いをしている方々が少なからずいらっしゃるのではないかと思うと、援護射撃のつもりが結果的には逆効果のような気がしたりもする。と言うか、長男は本当に広汎性発達障害だったのか?

奈良医師宅放火殺人事件 加害少年の鑑定書(A Forward-looking Child Psychiatrist >Juvenile Crimes:2006/10/14)

これまでの報道を見ていて一つ思うことは、この事件に関して本人の精神鑑定のみからわかること、判断できることは、他の事件と比べてたときに、特に少ないのではないかということです。
いくつかのエピソードを見ていると、この少年に広汎性発達障害があったとしても不思議はないとは思いますが、それがこの事件の経過に寄与している部分は意外に小さいのではないか、あるいは今後の処遇を考える時にも、障害の有無ということはそれほど重要な判断材料とする必要はないのではないか、と何となく感じられます。

こちらの記事にあるように、発達障害があったにせよ、それによる影響よりは父親からの間断ない叱責と暴力、エリート最高という価値観の押しつけの方がはるかに大きかったと言う気が、素人目からもする。

いずれにしろ、一番責められるべきはこの本を企画し執筆した著者であることに変わりはないだろう。