境界性パーソナリティ障害への治療法として注目される「弁証法的行動療法」

アメリカ心理学会「境界性パーソナリティ障害治療のためのガイドライン」により「BPDに対する治療法として最も有効な効果的な精神療法」として推奨されている「弁証法的行動療法」(Dialectical Behavior Therapy:DBT)。
これまで名前は知っていたが、詳しい内容を調べる機会がないままだった。するとたまたま先日斎藤学氏がお台場で開催された2日間のワークショップに出席し、そこで聞いたことについてブログで記事を書いていたのを見つけた。以下自分のメモがわりに記録を。
DBT(弁証法的行動療法)ワークショップについて(1/3)

DBT(弁証法的行動療法)ワークショップについて(2/3)

DBT(弁証法的行動療法)ワークショップについて(3/3)

特に(2/3)で療法の考え方の基本を要約して書かれている。

 まずリネハンがやったことはDSM-4のBPD診断基準で9項目に分類されていた諸徴候を5つの関連枠に整理し直してそこに共通する問題を見つけることだった。「激しく揺れ動く対人関係」という徴候からはじまる9項目は結局次の5領域のディスレギュレーショ(調節不全)として再編成された。

 その5領域とは1)情緒、2)対人関係、3)自己概念、4)行動、5)認知のことで、言われてみれば確かにBPDとはこれらそれぞれの領域でバランスの取れない人のことだ。

と領域を整理したあと、なぜ境界性パーソナリティ障害の方々が「極端」に苦しむのかということをこのように考察する。

 どちらか一方の極に貼り付いてしまうということは要するにいつも「正」と「反」との矛盾と緊張の中にいることで、これは別にBPDの人でなくても誰でもそうだと思うが、この緊張に耐えることが極端に弱いのがBPDの人という理屈なのだろう。

 この「正」と「反」の宙吊りを解消させるのは難しくて、むしろこれらに悩むことを当たり前として認めさせてやればいい。つまり自分の中には正も反もあるが、それはそれとして別の次元に身を置いてみようということになると、正と反の「統合」ということが見えてくる。それを指向するから「弁証法的 dialectic」ということになる

これだけでは正直何が「弁証法的」ということなのかよくわからない。そこで講師のコースランドさんがしてくれた例えを書かれていた。

「上があれば下がある。右があるから左がある。ところで皆さん黒の反対が白だとして、その弁証法的統合って何ですか?」。
 暫く時間を置いて応答がないのを確認してからコースランドさんが言った。「灰色じゃないですよ。灰色はグラデーションを伴うとはいえ、それ自体がひとつの『質』になってしまいますから。弁証法的統合というのに近いのは、白と黒のストライプや格子縞だと思います。これだとひとつの表現の中に白も黒もそのまま含まれていて、模様とか柄とかいう次元の違う特徴も備えているわけですから」。

 患者としては白い部分があっても黒い部分があってもいい。それがひとつの人格の中で独自の模様を作っていることを納得できるようになればいいわけだ。

ストライプや格子縞。そういうことか、と納得。

別の言葉でブログ「腹式呼吸カウンセリング」内の記事「第2章 弁証法的行動療法(DBT)」で解説されていたのはこのような表現。

ある真理(テーゼ)が主張される、だが、それに対立する真理(アンチテーゼ)が主張される。しかし、現実、実際は、そのどちらでも解決せず、別な方法(ジンテーゼ)で解決される。このような方法で、心の病気の人の支援をしていく新しい手法として、弁証法的な行動療法が行われている。

大切にしているキーワードは「アクセプタンス、コミットメント、マインドフルネス」。

DBTで高めていく4つのスキルについては「心療内科研修医参照頁」内「弁証法的行動療法」でこのようにまとめられていた。

①マインドフルネス(Mindfulness skills)   ←中核となる技能
②対人関係を有効に保つ技能(Interpersonal Effectiveness Skills)
③情動調節技能(Emotion Regulation Skills)
④苦悩に耐える技能(Distress Tolerance Skills)

さらに細かく「対人関係を有効に保つ技能DEARMAN」「対人関係を維持するためのGIVE」「自尊心を保つためにはFAST」「情動調節技能(Emotion Regulation Skills)」「ネガティヴな感情を減らし、ポジティヴな感情を増やしていくための行動療法的技法(PLEASE MASTER)」「苦悩に耐える技能・短期間の苦悩に耐えるための「危機を乗り切るための戦略」」「苦悩に耐える技能・長期間の苦悩に耐えるための「現実を受容するためのガイドライン」」など紹介されていた。これは障害がなかったとしても安定した情動で日々生活するガイドラインとして役立ちそうに感じた。

ワークショップに参加できなかったがDBTに興味がある、という方には日本心理療法研究所から「境界性パーソナリティ障害の理解と治療」というDVDが販売されている。

このDVDでは,リネハン博士の解説により,初めて我が国に「DBTの実際」を紹介します。ここでは、アメリカ精神医学会の公的な診断分類である「DSM-IV-TR精神疾患の診断・統計マニュアル」の作成委員長でもあるアレン・フランセス教授によるリネハン博士へのインタビューや臨床現場で実践を行っている医師や心理士へのインタビューを交え、DBTの核心に迫っていきます。

このDVDの解説から、もう一度DBTの概略を載せておく。

アメリカ心理学会「境界性パーソナリティ障害治療のためのガイドライン」により「BPDに対する治療法として最も有効な効果的な精神療法」として推奨されている弁証法的行動療法(DBT)は、行動科学に基づく認知行動変容技法と東洋の禅思想との出会いから生まれた「統合的精神療法」である。DBTは、患者自身のRadical Acceptance(あるがままの受容)を創発するMindfulness(マインドフルネス)技法を中核として,「効果的な対人関係技法」,「情動コントロール技法」、「ストレス耐性技法」から体系化されており、さらにメール相談やグループアプローチと個人療法の併用などが整備されている。

参考リンク:
パーソナリティ障害の認知療法