「我が国の経済格差の実態とその政策対応に関する研究会」報告書

「我が国の経済格差の実態とその政策対応に関する研究会」報告書 (PDF)財務省財務総合政策研究所:2006/06/05)

財務省シンクタンクである財務省財務総合政策研究所で平成17年9月から実施されている「我が国の経済格差の実態とその政策対応に関する研究会」(略称「経済格差研究会」らしい。なんだかすごい名前)の報告レポート要旨。

構成は以下の通り。

第1章 所得格差の動向とその要因:1986〜2002 年
 千葉大学法経学部助教授 大石亜希子
第2章 世代間・世代内の受益と負担の格差への対応
 財務省財務総合政策研究所総括主任研究官 麻生良文
第3章 我が国における今後の望ましい公的年金制度のあり方
 早稲田大学政治経済学術院教授 牛丸 聡
第4章 医療の特性とその政策対応
 慶應義塾大学医学部教授 池上直己
第5章 介護保険と格差
 成城大学経済学部教授 油井雄二
第6章 ミニマムの豊かさと就労インセンティブー公的扶助制度再考
 立命館大学大学院先端総合学術研究科教授 後藤玲子
第7章 日本の所得税・住民税負担の実態とその改革について
 一橋大学国際・公共政策大学院教授 田近栄治
 財務省財務総合政策研究所研究官 八塩裕之
第8章 相続税と経済格差
 一橋大学国際・公共政策大学院助教授 國枝繁樹
第9章 税制と社会保障制度の一体改革による格差問題への対応
 一橋大学経済学研究科・政策大学院助教授 山重慎二
第10 章 格差問題と税制―勤労税額控除制度
 財務省財務総合政策研究所長 森信茂樹
第11 章 社会保障所得再分配―「持続可能な福祉社会」の視点を踏まえて
 千葉大学法経学部教授 広井良典
補 論 1990 年代以降における経済格差と所得再分配政策について−実証研究を中心とするサーベイ
 財務省財務総合政策研究所総括主任研究官 寺井順一
補 論 世代間格差改善のための医療保険制度モデル私案とその可能性−賦課方式と積立方式の補完的導入
 財務省財務総合政策研究所主任研究官 小黒一正
 財務省財務総合政策研究所研究員 森下昌浩

章立てと概要にざっと目を通しただけだが、わかりやすく丁寧に書かれている印象。

そもそもこの「経済格差研究会」の活動は、

経済格差の実態を把握することが重要となっており、また、望ましくない格差があれば、それを是正する政策手段についての検討が必要と考えられる。特に、社会保障制度・税制などの面からは、公的年金医療保険介護保険生活保護等に関してどのような格差の問題があるのか、再分配はどのように機能しているのか、また、社会保険料・税の負担と社会保障給付とがどのように見直されるべきか、といった論点についても重要な検討課題となっている。

こういう問題意識から実施されたようである。目次からは特に格差と所得再分配の実態及び現状の問題点・課題について調べてあるように見受けられる。

特に興味を持ったのは以下の部分。

第9章「税制と社会保障制度の一体改革による格差問題への対応」では,次のような示唆がされている。

① 格差問題を改善するための政策としては、「均等化政策」から「潜在力支援型底上げ政策」に転換すべきである。
② 「潜在力支援型底上げ政策」を最も効果的に実行するためには、「税制と社会保障制度の一体改革」を行うことが有効である。

「潜在力支援型底上げ政策」の詳しい内容をぜひ知りたいところだ。

また、「第10 章 格差問題と税制―勤労税額控除制度」のこの内容。

格差問題が話題になる中で、深刻な問題は若年層の所得格差の拡大である。この原因は、正規雇用者と非正規雇用者(フリーター、パート)の賃金格差にあるので、一義的には労使間の話し合いや市場原理の中での解決が望ましいが、若年層の格差が進み、階層化すれば、社会問題となり追加的財政需要ともなるので、政府としての対応も必要である。
その際、参考にすべきものとして、米国、英国等の先進諸国で、税と社会保障の一体運営という考え方に基づき導入されている「給付つきの勤労税額控除制度」がある。この制度は、「一定の所得以上の勤労所得のある個人あるいは世帯に対して一定額の税額控除を与え控除し切れない額は還付(社会保障給付)する。所得が増加するにつれて税額控除額は逓減し、一定の所得額に達すると廃止される。税額控除仕切れなかった給付の実務は社会保障官庁ではなく税務官庁によって運営されている。」というもので、英国等では貧困問題、就労問題に対して大きな成果を挙げている。
わが国では、児童手当や生活保護等の社会保障給付は税制とは別個に執行されており、さまざまな非効率が生じているが、今後のあり方として、これらを可能な限り一体化した制度に見直すことが必要である。そのためには、社会保障支出、所得・税額控除、最低賃金制度のあり方を根本的に見直すことが重要である。また、税務当局と社会保障官庁の連携も必要で、霞ヶ関の縦割り行政の見直し、行政効率の向上につなげる制度設計にすべきである。さらに、給付(還付)に伴う公平性を確保するため、IT 技術を駆使しながら、納税者番号を組み合わせた新たな制度作りを行う必要がある。
いずれにしても、現在行なわれている「歳出・歳入一体改革」と整合性を採る形で制度設計する必要がある。

どこでだかは失念したが、同様の提案が書かれていたことを思い出した。年金の徴収も含めて、行政の効率化・公正化の観点からもぜひ検討してほしい施策である。