「産むならやめる、続けるなら産まない」の二択をせまられる女性たち

労働政策研究・研修機構の「労働政策研究報告書 No.64」より。

『仕事と生活の両立』―育児・介護を中心に―(2006/05/30)

コーホート(同じ生まれなどの世代、年代の固まり)ごとの比較で見ていて興味深いところが多かった。
サマリーと本文がアップされているが、サマリーで気になったところをピックアップしてみる。

◆第2章 出産・育児と就業に関するライフコースの概要

各歳時雇用就業率の推移は、何れのコーホートでも、M 字のカーブを描くが、若いコーホートほどM 字の底は浅い。しかし、出産女性のM 字の底は、均等法施行以後に初職を開始したコーホートにおいても、その前のコーホートに比べて浅くなってない。
均等法施行以後の世代全体のM 字の底が前の世代より浅いのは、出産せずに労働市場に留まる比率が高まった結果である。

つまり出産経験者の離職状況は均等法前後で変わっていないということ。

要するに、未婚化により出産していない女性が増えることにより、労働市場に留まる女性は増えているが、出産しても仕事を続ける女性は増えていない。仕事を続けるなら出産はしない、出産するならば仕事はやめる、という、<仕事か育児か>の二者択一的状況は、均等法施行以後に初職を開始した世代においても根強く残っているのである。

M字カーブの底上げがされているという分析は目にしたことがあるが、こういった属性別の調査ではなかったため単純に「均等法による離職の低下」としか考えられていなかったように思う。

◆第3章 初職勤務先の雇用環境と出産選択

均等法施行前に初職を開始した「1950〜60 年生」のコーホートと、均等法施行以後に初職を開始した「1961〜75 年生」のコーホートを比較した。
分析結果は次のように要約することができる。
① 学歴や初職属性にかかわらず、「1950〜60 年生」に比べて、「1961〜75 年生」は未婚率が高く、出産している比率は低い。
② 結婚・出産選択の規定要因はコーホートによって異なる。「1950〜60 年生」は、学歴が低いほど出産しているが、初職属性と結婚・出産の関係は見られない。これに対して、「1961〜75 年生」は、学歴による差はなく、初職の雇用形態が正規雇用であるほど、初職勤務先に育児休業制度があるほど出産している。
したがって、未婚から結婚、出産へのライフステージ移行支援として、若年層に対する安定的な就業機会の提供と、各企業が育児休業制度の規定を設けることが重要である。

これはそのままなるほど、という内容。

◆第4章 初子出産前の雇用環境からみた出産女性の退職

「1950〜60 年生」の継続層は、職種では「専門・技術職」、業種では「医療・教育・社会保険社会福祉」、企業規模では「1000 人以上・官公庁」に偏っていた。これに対して、「1961〜75 年生」では、育児休業制度の普及により、多様な職種、業種、企業規模に継続層が広がっている。その一方で、「1950〜60 年生」において継続する比率が高かった層において、「1961〜75 年生」では継続する比率が低下している。その結果として、全体の継続率は「1950〜60 年生」より高くなっていない。

昔は教師・公務員でなければ出産後も継続勤務できないと思われていたのが、そのすそ野は広がった。逆に教師・公務員でも継続しなくなった。言いかえるとそういうことか。

◆第6章 企業・家族・地域における仕事と育児の両立支援策の相互関係

① 企業の育児休業制度・勤務時間短縮等の措置の導入、家族における夫の家事・育児参加、地域での保育所利用には、初子出産時までの就業継続を高める効果がある。
② これらの支援策は、それぞれが単独で導入されても効果はなく、相互に組み合わさることで就業継続を高める。
育児休業取得による就業継続は、子が0 歳か1 歳で保育所を利用できることで高まる。

これもそのままなるほど、という内容。

◆第8章 子育て期の男性からみた仕事と育児の両立支援策の現状と育児休業取得ニーズ

育児休業を取得した人は1.0%とごくわずかであり、育児休業以外で、制度の有無にかかわらず、末子が小学校に入学するまでに何らかの仕事の調整を行った人も3.7%とごくわずかであった(図2)。男性が仕事を休んだり、仕事の調整をしたりしてまで、育児にかかわるという行動はきわめて稀なことであることが分かった。しかし、子どもが病気のときに看病のために仕事を休んだことがある人は約40%と、看護休暇制度に対するニーズは男性においても高かった。

たった3.7%。あとは自分以外の家族(主には妻)が対応しているということ。これで「育児をしている」なんて言えるのだろうか。
とは言え、これから子供が欲しいと思っている層は育児休業が欲しい、と思っているようだ。

育児休業取得ニーズについて
男性の約30%は育児休業取得を希望している。特に、これから子ども持つ可能性のある「未婚」や「既婚で子どもがいない」男性では1/3以上の人が希望しており、実際の育児休業取得者が1%以下である現実とのギャップは大きい。(中略)
また、労働時間の長い男性、夜間・深夜に働いている男性、土曜・祝日勤務の頻度が高い男性のほうが、育児休業取得ニーズが高かった。さらに、小規模企業、育児休業制度のない職場に勤めている男性のほうが、育児休業取得ニーズが高い傾向が見られた。

◆第9章 介護生活の実態と仕事生活への影響−どのような支援が必要なのか−

。親の介護が8 割を占める。男性は「自分の親」が7 割と多いが、女性は「配偶者の親」を介護する割合が多い。「主たる介護者だった」が47.0%であった。女性・高齢層が主たる役割を担う。男性は母親・妻・姉妹に、主たる介護役割を任せている。

介護負担は、主たる介護者に集中する傾向がある。その負担は、女性・無職・「非正規」雇用者に偏る。

実感として納得。

本文目次は以下の通り。
# 表紙・まえがき・執筆担当者・目次
# 序章 調査研究の概要
# 第1章 仕事と育児の両立支援策と研究の課題
# 第2章 出産・育児と就業に関するライフコースの概要
# 第3章 初職勤務先の雇用環境と出産選択
# 第4 章 初子出産前の雇用環境からみた出産女性の退職
# 第5 章 育児休業取得による就業継続の課題
# 第6 章 企業・家族・地域における仕事と育児の両立支援策の相互関係
# 第7章 育児期における男性の家事・育児分担
# 第8 章 子育て期の男性からみた仕事と育児の両立支援策の現状と育児休業取得ニーズ
# 第9 章 介護生活の実態と仕事生活への影響
# 第10 章 介護休業取得ニーズ・現在の職場での支援策導入状況
# 終章 両立支援の現状と課題/文献