「ポジションをつかめ」 齋藤孝が語る仕事(asahi.com)

1.常勤という束縛が力を生む

 企業の正社員になる能力のある人は、プロジェクトのリーダーになれる人材です。
 もうすでに世の中の仕事は、一つの企画ごとにチームが作られて目的を達するという仕組みになっています。そのために多くの仕事が外部にゆだねられる。正社員に求められるのは、新しいプロジェクト構想を練り、必要な人材を引っ張ってきて利益を上げる能力です。
 逆に言えば、「あいつは、企画を立てて周囲をマネジメントし、最後までやり遂げる力がある」と認められれば、雇いたい、うちに迎え入れたいと企業は考えます。マネージというのは、なんとかやりくりしてものにするというイメージです。自分の欲しい条件がそろわないと、この仕事は進められないなどとは一切言わない。

2.期待され、仕事意欲は着火する

 極端ですが、私は定職を得る前に自分に子供が生まれた。当然妻も仕事ができなくなる。このとき初めて、こうしている場合じゃないと焦ったのです(笑い)。
 そこまでいかなきゃ動かないほど、歯車の初動は重い。あなたにとってそのプレッシャーはなんでしょうか。
 それから悔しさという負のエネルギーも実は効果があります。仕事もしないで、とか仕事ができないといわれる屈辱を蓄えておいて、いつか見ていろと歯車を動かす力にしていく。そのときの悔しさを目の前にいる個人や家族にぶつけて使ったりせず、エネルギーだと意識してため込む。自分のようなつらい立場の人間を生み出す社会に向けて、仕事で何ができるか。
 自分の苦しさを人のために生かす、という視点で見えてくるものが必ずあります。

3.持ち出し、前倒しを厭(いと)わない

 また、仕事ができる人のそばで見ていると、発想は豊かだけれど細かい詰めの部分までやる時間的な余裕のない人がとても多い。それを承知したら、細かくて面倒なことはあなたが引き受けてあげればいいのだと思う。それはとてもありがたい存在ですよ。
 かゆい所に手が届く仕事ができれば、仕事のサイクルの一角に食い込むことができる。それをきちんとやりこなすうちに経験知が積まれ、次第に自分の仕事をデザインするほうに回っていけるようになる。ほんの小さな仕事、名もつけられないような職種。それが実は仕事のスタートラインであることが多いのだと思う。それを大切に、ていねいにやり続けていく気持ちを忘れてしまったら、なかなかチャンスは巡ってこない。仕事はさまざまな手仕事で成り立っているのですから。

#あちこちの雑誌に連載を持ち、次々に著作を出版、講演会はすぐに満席になる超売れっ子の齋藤先生の不遇の時期を振り返っての談話。迫力あり。