朝日新聞世論調査に大竹文雄教授のコメント

朝日新聞世論調査(11月末に郵送、1月17日回収締切)結果についての記事「「所得の格差が拡大」74% 本社世論調査」が今日の朝刊に掲載され、その詳細が10面・11面で発表されていたが、調査結果へのコメントとして大竹文雄・阪大教授が写真入りで登場されていた。写真を拝見するのは初めてだが、意外と(失礼)若々しくて素敵、というメガネ萌え的コメントはともかく。非常に納得感の高いフェアなコメントだったので、記録しておく。

「一筋縄ではない」というのが調査結果の印象です。所得格差は「広がってきている」と7割がみているものの、それを全員が否定的にとらえているわけではない。日本を「挽回できない社会」とみる人の「3割」も、微妙な数字だと思います。
若い人で「格差は努力で決まる」「競争は活力を高める」とみる人が多い。最近若い人が希望やヤル気を失っていると言われるが、まだまだチャンスはあって少々の差は逆転できる、と思っているということですね。ただ若い人たちの中にも、絶望している人たちがいるのも事実です。フリーター・ニート問題の一方で、小泉さんを支持する人も多いのは両方の考えの人がいるからでしょう。
中高年は格差に否定的で、将来の生活水準は下がるだろうという人が結構います。現在ある程度の所得や地位を得ており、それを維持できなくなる不安が大きいのではないでしょうか。
再分配政策については年代差なく支持が高い。自分も将来、恩恵を受ける側に回るかもしれないという不安が背景にあるのでしょう。ただし再分配には、失業した人を助けるような再分配と、今の年金制度のような若い人からお年寄りへの再分配があります。若い人は前者、中高年は後者のことを考えているのでしょう。
お金万能の世の中だ、とみる人が6割。お金以外に共有できる価値がなくなっているのではないでしょうか。成功モデルは多様化して、社会システムの設計が難しい時代になってきています。(談)

新聞のコメントなのでお話されたことが全部載っているわけではないとは思うが、「一筋縄ではない」、つまりこの結果を一面的にとらえてはいけない、という警鐘だと私は受け取った。さまざまな要素が入り混じっていて、記事にあるように簡単に『「競争は活力を高める」「挽回(ばんかい)できない社会だとは思わない」との見方も共に6割を占め、競争社会それ自体は、前向きに受け止める姿勢がうかがえる。』なんて断じるのは危険だということだ。

今注目の労働経済学者・大竹先生はこれからも目が離せない。「大竹文雄のブログ」も要チェック。

日本の不平等

日本の不平等

ちなみにこの調査の詳しい集計表は3月10日発行の「朝日総研レポート AIR21」3月号に掲載とのこと。ご希望の方は住所、氏名、電話番号に「3月号希望」と書き添えてFAX 03-5540-7476かはがき(〒104-8011 朝日新聞総合研究本部宛)へ。

2/8追記:
id:roumuyaさんの「吐息の日々」でもこの結果についての記事への論評が「格差をめぐるデータと意識」というタイトルで掲載されていた。
「これまでもあった格差が可視的になったことで意識されるようになった」「長期の経済低迷や、少子高齢化にともなう不可避的な社会保障の切り下げなどがあいまって、多くの人たちが自分自身の問題として生活不安を強く感じるようになったことが、『格差が拡大』『格差は問題』という意識を高めている」「活力につながる競争、階層が固定化せずに移動のチャンスのある社会というのは引き続き重要な観点」という内容に同意。
中流なんかおかしいじゃない、本当は違うんじゃないの、と学生時代納税証明書に「0円」と書いてあった家庭で育った私なぞは思っていたわけで、身の丈を認識するということは大切だと思う。ただ、それと幸福の尺度は別問題、というだけで。

とは言え、朝日の要約記事は記者のバイアスがかかった、もしくは朝日として主張したい内容だけをピックアップしたデータの見方をしていると思うので、この要約も「ひとつの見方」としてとらえておく必要があるのではないかというのが私の意見。