うつ病の休職復帰に関する連載記事

読売新聞の連載記事「うつ休職者の職場復帰」。
企業でうつ病による休職者が増えている現状の中で、治療はもちろんだが回復後の復帰が大きな問題になっている。そんな昨今、回復プログラムなどが注目を浴びており、タイムリーな記事である。

うつ休職者の職場復帰(1)…お試し出社 (4月11日)

 男性が勤めるシステム開発会社は昨年6月、この「リワークトライアル」の利用契約を結んだ。「今まで、心の病で休職した社員を復職させる場合、『復職可』と主治医が書いた診断書と、本人の『大丈夫』という言葉だけが判断材料だった」と人事担当者。非常勤の産業医はいるが内科が専門で、心の病については判断できなかった。

 「しかし、主治医と本人の言葉を信じて復職させても、うまくいかないケースが何度かあった。本当に復職させていいのかを見極めるためには専門家の協力が不可欠」

 「リワークトライアル」については、約30社が契約、うち8社の約25人が利用した。大半は復職し、2割程度は復職に至らず休職継続となっている。保健師の三上京子さんは「本人と会社の双方にメリットがある新しい復職支援の形だ」と話す。

手さぐり状態だった復職の過程が徐々にプログラム化されてきたと言える。

うつ休職者の職場復帰(2)…段階的な出勤、自信に (4月16日)

ある大手自動車メーカーは「勤務ではない」ということを社内規則で明確にし、出勤ではなく、「試し出社」と呼んでいる。職場にいるのは1日1時間以内。パソコンを見たり、同僚と話したりする。期間は最長1か月。

 休職中という位置づけなので、事故などに遭った場合、労災が適用されない可能性があるため、会社は民間の保険に加入している。

 「通勤、職場の雰囲気に慣れてもらうのが大きな目的。実際の業務に取り組むのは復職後」と同社。復職後の短時間勤務制度も設けている。

 北里大学の田中克俊准教授(産業精神保健学)は「十分に休むべき時に試し出勤をさせるようなことがあると、症状が再発するきっかけとなる懸念もある。業務かどうかの判断も難しい。慎重に検討し、ルールを明確にした上で運用するべきだ」と話す。

うつの間は体力も消耗していて、回復後は通勤だけでも大変だという話を聞く。そういう意味で慣らしの時期は必須だが、労災での扱いをどうするかなど就業規定での取扱など丁寧にしておく必要がある。

うつ休職者の職場復帰(3)…演芸鑑賞で回復度測る (4月21日)

この日の復職訓練は、午後1時から3時間半にわたって落語、漫才、奇術などを鑑賞すること。受講生は最前列に陣取った。

 この寄席を見た後、受講生には気に入った演目などに関する資料調べと、その成果をスタッフらの前で発表することが課されている。時折メモを取るなど、熱心に舞台を見つめていた。

 引率していた臨床心理士の斎藤愛さんは「仕事をしていても、昼食後の時間帯が一番眠くてつらいものです。その時間をきちんと起きていられるか。舞台に集中して、笑うべきところで反応できるか。そういった点を見ていれば、その人の回復度合いが分かります」と解説する。

好みもありそうな気もするが、集中できるかどうかが回復度合いの指標のひとつになるというのは体感的に納得できる。

うつ休職者の職場復帰(4)…焦り、診断書求める患者 (4月23日)

注目されているのが、産業医、人事担当者らが集まり、総合的に判断する形式だ。「復職判定委員会」などと呼ばれる。

 繊維メーカー「帝人」は2002年から、うつ病などによる休職者のための「復職サポートチーム」を設置し、復職判定を行っている。メンバーは、産業医、人事担当者、職場管理者(管理職の上司)。

 主治医の診断を受けて、本人が復職を申請すると、サポートチームが可否を判断する。

 復職可と判断すると、本人の状態に応じて、勤務時間短縮などを定めた「復職サポートプログラム」を策定する。原則として、事情のわかっている元の職場に復帰させることが前提。

 「それまでは決まったシステムがなく、職場の事情に詳しい職場管理者は加わっていなかった。複数の目で見ることで、より適切な判断につなげたい」と同社。

 復帰後の支援も社内が連携して行うことが求められる。帝人では、職場復帰後も定期的に勤務状況などを把握し、回復したと認められると、サポートチームは解散する。産業医による定期的なフォローは、最長5年程度続ける。

たしかに環境の急激な変化はよくないのだろうけど、うつをもたらした元凶の職場に戻すのが本当にいいのか、判断が難しいところではないか。

うつ休職者の職場復帰(5)…相談24時間受け付け (4月28日)

年に1〜2回、インターネット上で「ココロの健康診断イーミー」も受けられる。「食欲は落ちていません」「上司は困ったとき話を聞いてくれます」――。約280の質問に「はい」「いいえ」で答えると、性格傾向やストレス度合いなどを測定できるというものだ。

EAPの効用には文句はないが、280問はいくらなんでも多すぎでは。一体何を取っているのだろうか。

うつ休職者の職場復帰(6)…「働く訓練」受け再就職へ (4月30日)

情報技術関連会社「富士ソフト企画」(本社・神奈川県鎌倉市)は、2004年度からうつ病など精神疾患を持つ人向けに就労支援プログラムを提供している。

同社は、ソフトウエアメーカー「富士ソフト」(本社・横浜市)が障害者を雇用するために設立した特例子会社だ。

 特例子会社は、企業が障害者の雇用を進める目的で作る子会社。特例子会社で雇った障害者は、親会社が雇ったとみなされ、法律で定められた障害者の雇用率にカウントできる。06年からは、障害者雇用促進法の改正があり、身体障害者などだけではなく、精神障害者もカウントの対象になった。

 「富士ソフト企画」は社員約180人中、身体障害者が約50人。精神障害者保健福祉手帳を取得している人が約60人、うち、うつ病の人が約20人。

 同社のプログラムは、国の補助を受け、自治体や社会福祉法人の協力も得ながら、関東各地で開催されている。

 受講は、1年間症状が安定していることが条件で、就労に向けての訓練が可能という主治医の意見書などが必要。受講生は、精神障害者保健福祉手帳を持つ人が多い。受講料は無料。

 講義の内容は、パソコン技術、ストレス対処法、履歴書の書き方、面接の受け方など。カウンセラーや、パソコン技術などの講師は「富士ソフト企画」が派遣する。

 これまでに、うつ病などで離職した約140人が受講した。受講中、一般企業や特例子会社の人事担当者が見学に訪れる。法改正も追い風になり、就職率は約8割を超えるという。

こういうアプローチもあったとは知らなかった。うまく活かせないものか。

うつ休職者の職場復帰(7)…復職後、働き続ける工夫 (5月2日)

 この日の講師となった同法人代表で保健師の山口律子さんは、職場復帰をマラソンに例えて説明した。「職場復帰はスタート地点に過ぎず、そこから長く曲がりくねった山道を走り続ける日々が始まる。自分自身をよく知り、時にはコーチのアドバイスに耳を傾け、ペース配分しながら走り続けることが大事です」

 最も肝心なのは症状管理と節制。復職後の半年間は、週末も平日と同じ時間帯に起床し、生活リズムを崩さないことを勧める。起床後は着替えて食事を取る。「眠気や倦怠(けんたい)感がある場合は、その後、ソファなどでくつろぐ。パジャマ姿で一日だらだら寝て過ごすと、夜眠れなくなり、翌週、不調が起こりやすい」と指摘する。

 山口さんは、先輩や同級生など立場の違う相談相手を多く持つことの利点も助言した。

この界隈ではおなじみのNPO法人MDA(うつ・気分障害協会)」の山口律子さん。うつ病回復サポートの先駆者である。
復職前の診断からならし出勤、そして復職後のきめ細かいサポートという段階を踏んだ進め方が、結果的に再発を防ぐのだという。急がば回れ、ではないが。