ワークライフバランスを阻む正社員の“無限責任”

もうひとつPRESIDENT2007.4.30号掲載の記事より。こちらはリンクあり。
「ワークライフバランス」時代の新式マネジメント
一橋大学大学院商学研究科の守島教授が、若者が3年で辞めるのは「魅力ある働き方」ができそうにないからではないか、という仮説を立て、ドラマ「ハケンの品格」を引き合いに出して「“無限に”努力する正社員と“有限”の非正規社員 」という対比を示している。

ここで重要なのは、そうした区別の結果として、ある一定の働き方の期待が、非正規社員と正社員にはあることである。正社員は、会社のために体、時間、能力など、すべてを捧げ、やや誇張して言うと“無限に”努力する存在。逆に、非正規社員は、与えられた仕事の範囲だけでそうした資源を提供するいわば、“有限社員”。

正社員に関する人材マネジメントは、ひとつのパッケージとして、長期雇用長期の評価と育成その過程で求められるトータルコミットメントと繋がって、(女性・男性を問わず)ワークライフバランスを求める社員にマイナスのプレッシャーを与え、さらに、若者にとって、魅力のない働き方を提供する。

そして、ここで多くの若者が「3年で辞める」理由の一端をこのように述べる。

私は多くの若者が嫌がっているのは、年功序列による閉塞感ではなく、成果主義の下で、長期に競争することに対する漠然とした嫌悪と不安なのではないかと思う。年功序列を嫌って、早く頭角を現したいために辞職する若者は少数だし、また社会にとっては望ましいとも考えられる。
 つまり、多くの問題の根源に、正社員の働き方や、それを前提とした人材マネジメントのあり方があるのである。

正社員でい続けるためには無限責任のループに入らなければならない。しかしその責任を有限にしようとすると、途端に正社員の椅子ははずされる。そのからくりが見えていることがどうにもならない閉塞感を生んでいる、ということなのだろう。

これは何も働く人みんなに「仕事には没頭しない生き方」を強要するという意味ではない。そこのところは守島教授も書いている。

よく言われることだが、なかには、企業の必要と、働く側のニーズがマッチして、会社へトータルコミットし、家庭や個人生活を省みない人材がいてもよいし、逆に就業時間が終われば、それでさっと帰っていく人材がいてもいい。
 ポイントは、正社員のなかにも幾種類かの人材タイプがあり、そうした人材を別々に人材マネジメントする仕組みを準備することだ。人事用語を使えば、正社員の働き方の多様性にどう対応し、多元管理をどう進めるかである。

解決の方向性についてはこう提言。

こうした動きは、これまでの職能を中核とした人材マネジメントから、職務の明確化を中心とした仕組みへの変化を必要とするとの主張に繋がっている。職務をきっちりと定義すれば、それに見合った働き方を期待し、労働時間や給与を決定することができる。さらに、育成のあり方もかなり細分化、標準化することができるからである。
 だが、こうした変化は、日本の強みとされてきた長期のコミットメントや、人の能力の伸長に基づいた人事管理を減退させてしまうかもしれない。ここでも、新しい問題を解決するために、以前の強みについての難しい判断が必要になる。

たしかに、No pain, no gainだ。
しかし100%の正解などどこにもない。どちらが「better」かという判断を、今こそしていくべきであろう。